著者の作品は全て読ませていただいていますが、全ての作品に共通するのは、登場人物が自分の人生を自分で選べないというところです。
『螺鈿の鳥』の仙月は宮女として生きていくしかなかった、『チンチロリンとガーシャガシャ』の夫婦は戦争に翻弄されるしかなかった、そして『翠浪の白馬、蒼穹の真珠』のレツィンは人質として烏翠に赴かざるを得なかった。
でも彼らは本当に運命の囚われ人だったのか?
本作品の弦朗君も、王族としての枷から逃れることは出来ません。サウレリも族長代理として最愛の妹を自らの手で人質に差し出さなければならない。そして2人に許された時間はたった一晩だけ、翌日にはそれぞれの人生に戻っていかなければならない。
でも2人は十四日の月の下、酒を酌み交わし、歌を詠み合うことができる。互いの立場を超えて相手を思い合い、労わりあうことが出来る。ただ、相手の幸せを願うことが出来る。そこには何物にも侵すことのできない精神の自由があります。ヴィクトール・フランクルは名著『夜と霧』の中で次のように語っています。「人は強制収容所に人間をぶちこんですべてを奪うことができるが、たったひとつ、あたえられた環境でいかにふるまうかという、人間としての最後の自由だけは奪えない」と。
人としての業を背負いながら互いを思いやり、懸命に生き続ける著者の作品の登場人物たちは、私のことをいつも勇気付けてくれます。
とても美しい作品なので、ぜひ読んでみて下さい。
古代中華風の世界観で紡がれながら、異世界ファンタジーというジャンルの印象よりも重厚で味わい深い、とても美しい作品です。
民族同士の対立、王族としての権力をめぐる対立、そんな宿命を負いながらも互いの人柄に魅かれ、敵でもあり味方でもあるという複雑な友情を築いたサウレリと弦朗君。
自分の立場をわきまえつつも互いを思い合い、月下で友情を温め合う二人の様子が漢詩的な情趣溢れる詩を織り交ぜつつ描かれています。
現代ではこういうシチュエーションで成り立つ友情というのは存在し難いこともあり、男同士の静かな熱を秘めた固い絆って憧れますね。
この世界観、この二人の若者に魅了された方は、ぜひ本編の方も覗いてみてはいかがでしょうか。
この作品で描かれている男同士の情誼は、現代の男性が日常の生活を送っていては手に入らないと思わせる。
お互いに立場があり、自身の気持ちを優先することは出来ない中、想いを友に託し、友を想う。こうまで深く相手を信じられるには、それなりの壁を乗り越えなければならないだろう。
それはきっと戦だ。
戦という命のやり取りを通して、極限状況だからこそ手に入る信頼。
それがきっと必要なんだろう。
そう考えると、この作品は美しいけれど、背景を思うと、作品内で語られている以上の悲しさを感じる。
女性の作家さんだからこそ、細やかな描写で、雅な空気を纏った男の情誼を描けたのだろうと感じました。
6000字程度の作品ですが、考えれば考えるほど、作品世界観に読者を踏み込ませる作品とも思いました。
じっくり読んで作品世界に耽溺するのもよし、サクッと読んで男の哀愁的格好良さを味わうのもいい。
是非読んで、楽しんでいただきたい作品です