7 『安楽椅子馬券師、ななこの正体』
わたしがややおも高校に入学してから、一月ほどの時間が流れた。
現在校庭にて、週に一度の朝礼が行われており、生徒会長が壇上でまたぞろ競馬の話をしているところである。
さすがに一か月も経って、かつわたしは不本意ながら話題の中心人物だったので、否応なしに学校生活にも慣れてきた。朝礼がめぐさんの「みんな、おっはよー☆」から始まろうとも、校長の話が「あ、生徒会長の話す時間がなくなるんでそこまででーす」と途中で打ち切られようとも、生徒会長が歴代の名馬シリーズと題打って抑揚豊かに競走馬の話を始めても、驚かない。まあ、多少面食らいはするが。
「……かくしてカブラヤオーは幻の三冠馬となったのだ!」
生徒会長が拳を握りしめて話を終え、周囲から熱狂的な拍手が起こった。わたしがいまいち競馬に興味がない分を差し引いても、そんなに面白い話だとも思えなかったのだが、何故かこの生徒会長は人気がある。まあ確かに、クセっ毛がかわいらしい感じの爽やか系イケメンではあるのだが。
「あー、あとついでに。最近駅の周りでカツアゲ行為が多発してるらしいと警察から連絡があった。なるべく一人で人気のない場所には行かないように。以上!」
割りと重要な事項を最後におまけのように付け足して、朝礼は終わった。カツアゲねえ。先日聞いたチーマーの話がよぎったが、まあ考えるだけ無駄な話だ。……あといちおう念のため言っておくと、わたしはカツアゲなんてした事はない。地元では誰も信じてくれないが、本当だ。
クラスに戻っても、前のように囲まれる、ということもなく。かといって遠巻きにされるわけでもない。わたしにとって幸福だったのは、いくらこの学校の生徒といえども、四六時中競馬の話ばかりしているわけではないということだった。考えてみれば当たり前で、のりの養殖職人が四六時中のり養殖の話ばかりしているわけではないのと一緒だ。
ただ入学直後は皆面識がないために、無難な共通の話題として競馬が選ばれていたわけだ。『無難な共通の話題としての競馬』とかちょっと意味がよくわからないが、とにかくわたしを取り巻いて馬券勝負の話ばかりしていた子たちも、打ち解けるにつれてテレビ番組や音楽やマンガやファッションの話なども、ぽつぽつとするようになっていた。
とはいえ競馬の話でなくとも普通の女の子がするような話題には縁遠いわたしであるので、主に聞き役に回ることになるのだが、それはそれで需要がある。結果としてわたしは『なんか盛り上がってるグループの真ん中らへんにいる人』という立ち位置を獲得していた。『らへん』というのがポイントだ。まあようするに、なんやかんやでうまくやっていけるようになっちゃっていたのである。
そうやって一日をなんやかんやうまくやった後の放課後は、だいたい部室に行くのと道場に顔を出すのとで半々といったところだ。今日は部室に寄ってみた。
馬券師部の部室で何をするのか、と言われると何もしないのだが、『特にやる事がなくても他人となんとなく居られる場所』というのは、部室という存在の唯一無二の属性だと思う。ななこ先輩も副部長も基本的には寡黙な人であるので(特にななこ先輩は一言も発しない日の方が多い)、部室に置いてあるマンガや雑誌を読んだり、宿題をしたり、たまにぽつぽつと話をするなどして、なんのかんの居心地がいいのである。
そんな部室に入ると、副部長がノートPCで何やらゲームをやっていたので、隣に腰を下ろす。画面を覗き込むと、リアル路線の女性グラフィックが、妙にゴージャスな水着を着て立っているのが見えた。
「……エロゲ?」
「さすがに俺も学校でエロゲはやらん。もっとこの辺をよく見ろ」
家ではやるのか、と思いつつ指さされた辺りを見ると、遠景に草を食む馬が映っていた。
「あー、競馬ゲームですか」
「その通り」
「でもじゃあ、この趣味の悪い水着の女の人は……?」
「秘書だ」
「秘書……?」
最近の競馬ゲームの秘書は牧場に水着で出勤してくるらしい。なかなか闇の深そうな話であるので、わたしはそれ以上の追求をやめた。
「うまを育てるゲームなんですか?」
「育てるというよりは……楽しみ方はいろいろあるが、種付けがメインだろうな。血統を考えて交配して、どんどん新しい馬を競馬界に送り出していくのだ」
「うげ、血統ですか。ムズカシソー」
競馬の話はだいぶついていけるようになったわたしだが、未だ一語も理解できないのがこの血統というヤツである。というかクラスの女子高生たちが平然と『種付け』とかいう言葉を口に出すのは、控えめに言って狂っていると思う。
「深く立ち入れば難しいものだが、簡単だよ。例えばそう、皐月賞を勝ったアルアインがいたね。君はあのレースを見事的中させて馬券勝負の勝ちを決定づけたわけだし、それなりに思い入れもあるんじゃないかね?」
「まあ、それなりに」
光に包まれながらゴールする瞬間は、未だいろんな意味で心に焼き付いている。
「そのアルアインも、今から3、4年もすれば種牡馬になってたくさん子を成すだろう。その子がレースに出てくればサトミ君も『あ、アルアインの子だ』ぐらいの感想は持つだろう?」
「でしょうね。応援するかも」
「だろう? そんな感じで20年ほども年月が積み重なれば『あ、この仔のお父さんはステイゴールドなのか、それにお母さんはメジロマックイーンの仔だし、1/8だけどノーザンテーストの血も入ってるんだな』みたいな感じになってくるわけだ」
「……気の長い話ですね」
「実際気の長い話なのだよ。競馬における血統というのはようするに、その馬が生まれるに至った長い歴史に付随するロマンのことなのだ」
「なるほどねえ……」
まあ、理解するのにも長い時間がかかりそうなのは理解できた。
「こういうゲームは、血統のイメージを掴むにはぴったりだぞ。今のセーブデータなんてもう100年以上プレイしているから、ほぼ全ての馬に俺の生み出した馬の血が入っている」
「100年て。主人公死なないんですか?」
「甘いなサトミ君、最近の競馬ゲームは主人公も種付けできるのだ。人間のほうももう四代目だぞ」
「マジか……」
やはり競馬ゲームの闇は深いらしい。
そんな感じにためになるようなくだらない話をしていると、部室のドアがとんとんとノックされた。
「入りたまえ!」
無駄に偉そうな副部長の宣言とともに、部室のドアが開かれる。
そこに立っていたのは、今朝朝礼台の上に立っていたクセ毛の爽やかイケメン、すなわち生徒会長であった。
「やあやあやあ、わりーねお邪魔して」
「いらっさーい」
完全に空気と化していたななこ先輩が安楽椅子の向こうから手を出してひらひらと振った。馬券師部に来客があることはそう珍しくもないが、ななこ先輩がこうして自分から声を出すのは珍しい。それなりに歓迎されている客のようだ。
「こんにちは」
なので、わたしも一応敬意を払って挨拶をしておく。
「お、君が噂の……」
「はあ、まあ不本意ながら噂の羽崎サトミです」
座ったままではあるが、ぺこりと頭を下げる。
「はは、噂のって認めちゃうんだ。面白い子だね。俺は知ってるかもしれないけど、生徒会長の
「くるみ……」
生徒会長なのは知っていたが、名前までは知らなかった。かなり珍しい名字だ。
「彼のことは遠慮なく、クルミちゃんと呼んでやってくれ」
あらかわいい。
「かわいいですね! クルミちゃんよろしくー」
「いやうん、まあいいんだけど俺生徒会長だからね、俺をそんな呼び方すんの君らだけだからね。そしていきなりフランクになったね君」
「サトミ君の中でクルミちゃんの位置付けが決まったようだな」
「いや、単にクルミちゃんに堅苦しいのも変かと思って……」
「ま、気にしないからいいよ。その代わり俺もサトミちゃんって呼んでいいかな?」
「そりゃまあ、お好きにどうぞ」
「ありがとうサトミちゃん、君みたいな可愛い子とお近づきになれて嬉しいよ」
と、クルミちゃんは迷わずわたしの隣に座り、長い足を組んだ。名前は可愛いがこいつさてはチャラ男だな。チャラ男と副部長に挟まれることになったわたしは、助けを求めるように、というわけでもないのだが、ななこ先輩の方を見ると、アホ毛をぴーんと逆立てていた。
「サトミちゃん、気をつけて」
毎度ながら、安楽椅子の向こうにいながらこの空間内のことはしっかり把握している様子である。わたしは「ななこ先輩が言うなら仕方ない」とばかりに、つついーっと長机の反対側に席を移した。
「あらら、びっくりさせちゃったかな?」
と、クルミちゃん。『嫌われちゃったかな』ではなく『びっくりさせちゃったかな』と言うところがそこはかとなくチャラ男っぽい。
「クルミちゃん、サトミ君にコナをかけるためにわざわざ来たわけではないのだろう。さっさと本題に入りたまえ……とななこ部長はおっしゃっているよ」
「はいはい……。前に打診してた勝負の件だけどね。正式に申し込みに来たんだ。ややおも高校生徒会長として、最後の壁を超えないとね」
と、クルミちゃんは肩をすくめる。
「最後の壁……?」
「ああ、サトミちゃんはひょっとして、この学校の生徒会長がどうやって決まるか知らないのかな?」
わたしは頷く。
「普通に選挙とか、ではないってことですか」
「うん。ややおも高校では、一年生の一月から二年生の十二月までの期間で『馬券力レース』というものが開催されていてね。参加者は週末にその週の全レース予想を提出して、その結果に応じて付与されるポイントを競う、ってものなんだけど」
「一年かけてやる馬券勝負、って感じ?」
「そんな感じ。そしてこの『馬券力レース』の優勝者こそが、ややおも高校の生徒会長になるわけだ。すなわち」
クルミちゃんはびしっと親指で自分を指差した。
「生徒会長になるヤツが、いちばん競馬がうまいってことさ」
ばーん、とでも効果音を出しそうな顔でクルミちゃんは言った。まあ、それが何であれ学年トップというのは素直にすごいな、と思う。ぱちぱち。
「……ありがとう。だがまあ、例外というのはやっぱりいてね。それがこのななこだ」
「うむ、ななこ部長は馬券力レースに参加していないからな」
「生徒かどうかすら怪しいですもんねえ」
わたしが思わず口にすると、ななこ先輩は「心外な」とでも言いたげにアホ毛を屈伸させた。
「というわけだから、俺にとってななこちゃんは超えるべき最後の壁というわけさ。というわけで、さ来週のダービーで、いよいよ決着をつけようじゃないか」
「いいよー」
どうやらだいたいの段取りは事前に決めてあったらしく、ななこ先輩はものごっつい軽い感じに承諾した。
その翌日。『生徒会長vs安楽椅子馬券師ななこ』の報はあっという間にかけ巡り、校内はその話でもちきりであった。
どうやら、生徒会長が一度は『ななこ』と対戦するのは、毎年の恒例行事のようなものであるらしい。一応この学校における、最強決定戦ということになるのだろうか。
生徒会長はもちろん『馬券力レース』の優勝者であるから、運だけではなく、年間通じて馬券力を発揮した強者である。対してななこ先輩の方はどうか。わたしが入学してからはまだ一度も馬券勝負をしていないし、レース予想を聞いたこともない。聞いた話でも、『ななこ』が直々に馬券勝負をすることは、年に数回ほどだという。
では、なぜ『ななこ』は信仰にも近いような尊敬を集めているのか。
「それはねサトミちゃん、彼女が一度も負けたことがないからよ」
そうやって、鼻息荒くわたしにななこ伝説を聞かせているのは、
「私のお姉ちゃんもややおも高校だったんだけど、その時も三年間ずっと、生徒会長との一戦はもちろん、他の勝負でもななこは一度も負けなかったらしいわ。それだけでなく、もう何十年も勝ち続けているらしいの」
この話ももう何度聞いたか分からない。戸隠さんはわたしが競馬をろくすっぽ知らないということを聞いてからというもの、妙な使命感を持ってわたしに競馬のことやややおも高校のことを教えようとしてくる、不思議な女の子なのだ。ありがた迷惑感はあったが、なんやかんや情報源としてけっこう便利ではあったりする。
「ねえ、戸隠さん」
「もう、沙英でいいって言ってるじゃないの」
戸隠さんは口だけでにたあ、と笑う。便利ではあったりするのだが、やたら距離を詰めようとしてくるところがあって、正直ちょっと引いている。
「そうだね、戸隠さん。でも不思議なんだけど、どうしてななこ先輩に関することって、『らしい』ってのが必ず最後に付くの? 言ってもそんな昔の話でもないんだし、そこまで注目されてる人のことなら、ちゃんと記録が残ってそうなもんだけど」
「それはね、ななこに関する記録は年度ごとに全て焼却処分する慣例だからよ」
「何その慣例怖っ」
「別に怖くはないわよ。とにかく、ななこに関する記録は残しちゃいけない記録になっているの。最近なら、もちろんスマホやパソコンのデータもね」
「いや怖いけど……。それ、こっそり残しとく人とかいないの?」
「いるかもしれないけど、校内に残しておいてもたぶん他の人が処分しちゃうわよ。そんなものがあったら、『ななこ』伝説が穢されてしまうもの。彼女については口伝でのみ伝えられるべきなのよ」
と、ちょっと眼の色がヤバくなってきた戸隠さんによると、『ななこ』の正体を詮索することはこの高校ではタブーとして認識されているらしい。いや、タブーというか、『ななこ』は謎の存在のままでいてほしい、という意識があるようだ。
ヒーローは正体を隠すもの。ようするに『詮索するのは野暮だ』ということなのだろう。
「でも、少なくとも私のお姉ちゃんの代から今に至るまでの5年間、ななこが負けるところを見た人はいないというのは間違いがないわ。きっと今回も勝つのよ、今までと同じように」
「そっか……うん、この勝負の背景は大分のみこめたかな。ありがとう、戸隠さん」
「沙英でいいわよ。……サトミちゃん、どこ行くの?」
「う、うん、ちょっと部室の方に用事がね」
「そう……神聖な馬券師部の部室に行くならついていくわけにはいかないわね。サトミちゃん、頑張って!」
「いや、頑張るような用事じゃないんだけど、うん、じゃね……」
無表情のままぶんぶんと手を振る戸隠さんに軽く手を振ると、わたしは部室棟に向かい、部室のある階を通り過ぎて屋上へ向かった。わたしは「部室の方」と言ったので、嘘はついていない。ななこ先輩について、一人でゆっくり考えたい気分だったのだ。あと戸隠さんちょっと怖いし。
ななこ先輩。大多数の生徒にとって彼女は、どちらかというと現実味の薄い、伝説上の人物のように認識されている感がある。たぶん、物語の中のヒーローの活躍を喜ぶのに近い。
だけどわたしは(姿は見ていないけど)いつも間近にいるし、声も聞いている。だから逆に今までは『全盛期のななこ伝説』みたいのを聞かされても、実際のななこ先輩とイメージがうまく重ならず「んな馬鹿な」ぐらいにしか思っていなかった。
でも田之倉くんとの勝負で貸してくれたあの双眼鏡。あれは確実に、尋常なアイテムではなかった。あれがもし本当に勝ち馬が見える双眼鏡なら、何十年も無敗という伝説も現実味を増してくる。何年留年してるんだよという疑問は依然として残りはするが。
とにかくわたしは、(たぶん)わたしだけがあの双眼鏡のことを知っているわけで、あの日からずっとななこ先輩はいったい何者なんだろう、という疑問は膨らみ続けていた。だからこうして、わたしは足繁く屋上に通っていたのだ。
そして今日の屋上には、目当ての人物がいた。
「やあ、サトミちゃんか。久しぶりだね」
「水月先輩……」
水月先輩は前回会った時と寸分違わぬポーズで、屋上から景色を眺めていた。
うらぶれた校舎の屋上とは不釣り合いな、妙にポーズの決まっているその先輩に会うのは、これで二度目だった。
前に会ってから何度も屋上には顔を出していたがついぞ現れず、廊下などでも三年生とすれ違うときには確認していたのだが、いればかなり目立つであろう水月先輩の姿を見かけることはなかった。
「お久しぶり、です」
どうしてわたしはこの先輩のことを探していたのか。確かに水月先輩は綺麗でカッコ良くて中二病だけど、それだけの理由ではない。
「けっこう探してたんですよ、先輩」
「それは悪かったね」
水月先輩は、まるで何百回も練習したかのような優雅な動作で豊かな金髪をかき上げた。
「だが、見ての通りと言うべきか、こう見えて、と言うべきか……私は体が弱くてね。学校は休みがちなんだ」
「意外ですね」
水月先輩は確かに繊細なガラス細工のように細く、肌は陶磁器のように白い。けれどもややつり目がちの瞳は生命力に溢れて見えるので、わたしにとっては意外だった。
「そうか、君は意外な方か」
先輩はそう言ってくつくつと笑う。
「そういえば、馬券勝負には見事勝ったそうじゃないか。おめでとう」
「ありがとうございます。……先輩のおかげですよ」
「そうかい? こんな私でも、お役に立てたなら良かった」
『私は何もしていない』と言われるかと思っていたが、水月先輩はわたしのお礼を何の気負いもなく受け入れた。
「ええ、お陰様で……よく見えました」
「……そうか」
呟くように言ったその言葉はしかし風に流されず、しっかりとわたしの耳に届く。繊細だけれども力強いこの声、初めて会ったときにはどこかで聞いたような、と思いながらも、水月先輩のカッコ良さにドギマギしていてそれどころじゃなかった、この声。
だが今なら分かる。ななこ先輩の声に似ているのだ。はっきり言おう、わたしはななこ先輩の正体が、この水月先輩ではないかと疑っている。
安楽椅子の陰から見えるアホ毛は黒髪だし、そもそも水月先輩にアホ毛は立っていない。口調も似ても似つかない。だけどそのあたりはたぶん、誤魔化しようのあるところだ。しかし、誤魔化しようのないところの声はよく似ている。
「どうかしたかい?」
「い、いえ」
水月先輩に見透かすように見つめられて、わたしは眼をそらした。確かに似ているのだが、こうして面と向かって聞いてみても確信には至らなかった。安楽椅子越しに聞くのとは反響の具合が違うのか、声色を変えているのか……それとも似ているだけの別人なのかは、わからない。いっそはっきり尋ねてみようかとも思ったが、ななこ先輩の素性を詮索するのはタブーだと、戸隠さんは言っていた。水月先輩の不興を買いたくはない。
そんなわたしの逡巡を知ってか知らずか、水月先輩はこんなことを言った。
「そうだね、よく見えたのは確かにわたしの影響もあったかもしれないし、他の何かのおかげだったかもしれない」
「は、はあ」
これは、あの双眼鏡のことを言っているのだろうか。だとしたらななこ先輩の『中の人』であることを暗に認めていることになるのだが。……もとから中二病特有の、無駄に何かを匂わせるような喋り方をする人なので、どちらなのかは判別がつかない。
「だけどね、『見た』のはサトミちゃん自身だ。それを間違えてはいけないよ」
「えっと、それはどういう……?」
「すぐに分かるさ。きっと、近いうちにね」
水月先輩はそんな、無駄に意味深なセリフを残して。
まだ聞きたいことがたくさんある、わたしを残して屋上を去っていってしまった。
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