第21話 カルディVSジェロディ

 向かい合うカルディとジェロディ。

 二人の間に張り詰めた空気が流れる。

 ゆっくりとジェロディが間合いを詰めてくる。

 カルディはジェロディを目で追いながら、周囲を注意深く伺ていた。


『サイクロプス』第2席『請負人』と言っていた。

 おそらくカルディ自身、普通に戦って勝てる相手では無いと実感していた。


(さてどうしたものか……自分自身で殺ると言っては見たものの、果たして勝てるだろうか……いや、考えても仕方ないの事だ。ここは先手必勝で一気に叩く)


 カルディは手を前に掲げると周囲の光がカルディの手に集まった。

 そして、カルディの手に長い槍のような物が収まっていた。

 槍の尖端は赤く輝く何とも言えないほど綺麗な輝きを見せていた。

 カルディは構えて徐々に近づいてくるジェロディに向けて一気にギアを上げて突進する。


 カルディの突きを難なくかわしたジェロディはカルディの背後に発勁のように平手を繰り出す。

 激しい音と飛び散る血潮。

 リース達はカルディが背後からの直撃を受けたと思っていたが、血を流しているのはジェロディの方だった。

 ティアラだけは事の顛末を見極めていた。


「どうして?」

 ルフィーナは驚きのあまりに声に出した。

「なるほど、俺がかわすことも計算に入れていたという事か」

 傷を負ったなど微塵も感じさせない表情でジェロディは笑みを浮かべながら言った。


「ひとつ聞きたい」

 ゆっくりとカルディはジェロディに振り返り問いかける。

「なんだ?」

「お前は『サイクロプス』で第2席と言ったが、2番目に強いと思っていいのか?」

「ふん。くだらん質問だ」


「答えろ!お前より強いのは1人だけか?」

「純粋に戦闘能力で言えば、俺より強いのは3人は居るぞ」

「……てっきり2番目だと思ったが……」

「何も力だけで席番が決まるわけでは無いからな」

 笑みを浮かべながらジェロディは答えると


「ただし、第1席は違う。奴の力は想像を絶する力だ。お前たちも聞いたことがあるだろう。『聖公女』と言う者を」

「『ハイ・エルフの聖公女』人類では決して勝てない最強の加護者」

 聖公女と聞いて答えたのはティアラだった。

「そうだ。奴の力は異常だ。たとえ、かの4大英雄の『ユーノ・ヴィスコンティ』でも瞬殺される力を持っている」

「あの『天帝』ですら一瞬で……』」

 リースは驚き目を見開く。


「『聖公女』の話はどうでもいい」

 カルディは切り捨てるように言うと

「結局お前はそれほど強くないという事だな」

 槍を構えて再び戦闘態勢に入った。

「ふん。言ってくれる。これでもお前よりは数段強いぞ」

 ジェロディも今度は構えを取って応戦体制に入った。


 二人同時に突進する。

 激しくぶつかり合い、魔法も絶え間なく発動され続けた。

 そして、カルディが吹き飛ばされ、膝をついた。


「ねぇティアラ、カルディ君大丈夫?」

 心配そうにリースがティアラに尋ねた。

「そうですね。おそらく向こうの方が魔力も体力も上でしょう」

 随分あっさりとティアラは答えた。

「それってまずくないの?ティアラなら勝てる?」


「分かりませんが、おそらく勝てると思います。それに、カルディもおそらく勝てると思いますよ」

 ティアラの表情はなんの感情もないように見えた。

「それどういう事?」

「神皇聖騎士団の一桁順位は『SS』以上の魔力が必要です」

「それってカルディ君は『SS』以上ってこと?」

「はい。おそらく『SS』でしょう」

「じゃあ、あのジェロディって人は?」

「見る限り、私と同等でしょうか?」

「え?それだとカルディ君の方が低いってこと?」

「おそらくそうだと思います」


「……それだと勝てないのでは……」

 ティアラとリースの会話を聞いていたルフィーナは複雑な心境で言った。

 ルフィーナからしてみれば、カルディが『SS』ランクなんて認めたくない事実であった。

 万年落ちこぼれだと思っていた人物が実は自分よりも強く、いや、自分なんかとは次元が違うということをいきなり知らされても信じることも出来ないし、ましては認めたくもない。


「神皇聖騎士団の一桁順位になるためには『SS』以上と言う条件以外にもう一つあります」

 ティアラはルフィーナの表情を伺いながら言った。

「もう一つとは?」

「それはこの戦いを見ていれば分かると思います」

 その言葉を聞いてリース達は二人の戦いの行く末を見守ることにした。


「強いな……思った以上に」

 カルディは片足をつきながらジェロディを睨みつけながら言った。

「神皇聖騎士団も大したことは無いな。まともなのは『風神』ぐらいのものか」

 呆れた表情でジェロディはカルディに向けて言い放つ。

「確かにあの人は神皇聖騎士団の中では最強だろう。しかしお前ごとき俺でも十分だ」

 ジェロディは何も言わずに更に呆れた表情を見せるだけだった。


「天より来たれ神々の剣……幾万もの刃を持って我が敵を打ち滅ぼせ!」

「テュロク・リジル!」

 カルディは呪文を唱え魔法を発動させる。

 ジェロディの周囲に無数の光の線が浮かび上がった。

 やがてその線は形を成していき、剣のような形成を生んだ。

 無数の剣がジェロディに襲い掛かる。

 ジェロディは必至で回避を試みるものの無数の剣が一斉に襲い掛かってくる状況ではさすがに回避しきれなった。

 致命傷とまでは行かないがかなりの傷を負わす事に成功したのだ。


「き、貴様!」

 今まで涼し気な表情を浮かべていたジェロディの表情は一変した。

 ジェロディはカルディに向かって一気に距離を詰めた。

 カルディの腹部にジェロディの拳が入る。

 くの字のように折れ曲がり吹き飛ぶカルディに向かって、手のひらに大きな黒い塊を放出させた。

 激しい爆発音と共に転がり込むカルディ。


 一瞬で勝負がついたように思えた。

 しかし、カルディは必至で立ち上がろうともがいていた。

 その姿を見たジェロディは

「大地の王よ反逆の徒に大いなる罰を与えたまえ!」

「シャムシール・エ・ゾモロドネガル!」

 強力な魔法を発動させる。

 カルディの足元より巨大な木の枝がカルディを襲う。

 貫かれることは無かったが、カルディはその枝をまともに食らい、天高く打ち上げられるとそのまま大地に落下した。


 ふぅ

 ジェロディは一つ呼吸を整えて、ティアラに向き直った。

「次はお前だ」

「いいのですか?まだ終わっていませんよ」

 ティアラの言葉に驚きながら振り返ると、かろうじて立ち上がったカルディが居た。

「しぶとい奴だ」

「やはりこのままでは勝てない様だ」

 そう言ってカルディは天を仰ぎ目を瞑る。

「では切り札を出させてもらう」

 目を見開きジェロディを見つめる。

 その表情は穏やかなものだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雷帝少女ティアラ はくのすけ @moyuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ