第03話 王都への旅立ち

 メザル郊外。

ティアラとテリウス、そしてリースの三人はギルドの依頼を受け、行商人を王都まで護衛することになった。


何故この三人になったかと言うと、ティアラがギルドに登録を済んだ直後、リースに声を掛けられた。

リースは半ば強引にこの依頼を受けようと誘ってきた。

ティアラは断ることも出来たのだが、ギルド登録して間もない新米が先輩の誘いを断るのは失礼だと判断した。


「王都まではどれぐらいなのでしょうか?」

ティアラは隣を歩くリースに話しかけた。

「そうだね。三日ってところかしら」

「三日ですか……随分遠いのですね」

「それはそうよ。メザルは最東端の町で『レイザーク帝国』のすぐ隣だもの」

「そうですね」


いきなり王都に行くチャンスを得た。

王都なら色々な情報が手に入るかも知れない。

そう思いながら王都に向かう。


「そう言えば、ティアラはどこから来たの?」

「私は『レイザーク帝国』からです。リースさんは?」

「私はルクレット王国の北の小さな村の出身なんだ」

お互いの出身地を述べた。

「テリウスは?」

リースはテリウスにも出身を聞いた。

「僕は『ルートデイン皇国』です」

「そうなんだ。全員バラバラだね」

笑いながら話すリース。


 しばらく街道を歩いていると、大きな橋に差し掛かった。

橋の下には上流の為に流れの早い川がある。

橋の前でティアラは馬車を止めさせる。

「どうしたの?」

不思議そうにリースが尋ねる。

「橋を調べます」

そう言ってティアラは橋の上を歩く。

橋の端側に行き下を覗き込んだ。

「テリウス、反対側も調べて」

「かしこまりました」

テリウスは言われたままに橋を調べた。

「何も問題はなさそうです。このまま進みましょう」

ティアラの言葉に皆が頷く。


 そして馬車は動き出した。

「凄いね。私なんて全然思いつかなかったよ。橋に細工されている可能性なんて」

感心した表情でリースが言う。

「結果的に何もありませんでした。お時間を取らせただけの形になってしまいました」

ティアラは申し訳なさそうに答えた。


 その後の旅は何事もなく、夕刻に差し掛かった。

目の前には森が広がっている。

「今日はこの辺りまでに致しましょう」

ティアラの提案に

「そうね。これより先は森だから、夜は危険ね」

リースも同意見だった。


 夕食の準備は行商人とテリウスが受け持ってくれた。

食事中に行商人が踊りを披露する。

リース達はそれを見て大いに盛り上がった。

食事を終えて、行商人が就寝をする頃、リース達は交代で番をすることになった。


 満点の星空の中、ティアラは一人考えていた。

この国に父を殺した者がいるだろうか?

その者はやはり『』なのだろうか?


「綺麗な星空でしょ?」

突然の声に振り返る。

リースが立っていた。

「リースさん、交代はまだですよ」

リースはティアラの隣に腰かける。

「分かっているわ。少しティアラとお話がしたくて」

そう語るリースは星空を見上げたままだった。

ティアラも同じように星空を見上げた。


 無数の星が夜の闇を照らしている。

その壮大さは人の小ささを証明するかのように。

「お話とは?」

ティアラはリースの横顔を見て聞いた。


「ティアラ、あなたは『王』の位なの?」

「……確かに

いつのまにかリースがティアラを見ていた。

その表情は納得しているものだった。

「やっぱり」

「別に隠しているつもりはないのですが」

「いいの」

「そう言ってもらえると助かります」


この世界にとって『王』の位を持つ意味をティアラは知っている。

尋常ならざる力を持つ『加護者』にとっても『王』の位を持つものは限られている。

「その力は雷系でしょ?」

「……そうです……」

「だからかな?」

「何がですか?」

「普通『王』の位を持っていると大陸中にその名を轟かすはずでしょ?」

「……そうですね」

「でも雷系は『神』の位と『みかど』の位があまりにも有名だもの」

「……」

ティアラは何も答えなかった。


「『雷神』と『雷帝』この二人があまりにも有名すぎて」

「リースさんはその二人の事を知っているのですか?」

「会ったこともないし、名前も知らないけど、ギルドとは別の組織に居ることは知っているよ」

「ギルドとは別の組織?」

「そう、傭兵とかとも違うし、人々の依頼を受ける訳でもない、かと言ってルートデインの『神皇聖騎士団』とも違う」

「では一体何をする組織なのでしょう?」

「私が耳にした話だと、何やら秘密結社を壊滅する為だけに作られた組織らしいの。しかもメンバーはどこの国にも属していないとのことだわ」

「その組織の名前は?」

「そこまでは知らないわ」

「そうですか」

少し安堵した表情を見せるティアラ。


「ティアラは『神皇聖騎士団』の一員なの?」

「え?どうしてそう思ったのですか?」

「だって、その強さで無名ってことはそこしかないかなって思って」

「なるほど、『神皇聖騎士団』の主要メンバーは公開されていませんもんね」

「そうそう」

「残念ながら違います」

ティアラは否定した。


「ねぇ『王』の位て何?」

後ろから幼い声が聞こえた。

行商人の家族の子供がリースとティアラに聞く。

リースはすっと立ち上がり、子供の頭を撫でた。

そして、子供を連れてティアラの横に腰を下ろす。

「『王』の位ってね、とっても強いのよ。それは王様ぐらいに強いから『王』の位っていうのよ」

優しい口調でリースが話す。


「加護者の位の事なの?」

子供は目をキラキラさせながら聞く。

「そうよ」

「じゃあ、『王』の位が一番強いんだね」

ますます目を輝かせる子供。


「ううん。一番強いのは『神』と『帝』の位よ」

「かみ?みかど?」

子供は不思議そうな表情に変わる。

「『神』の位はね、神様ってことね。そして『帝』の位は皇帝様ってことね」

「皇帝様と王様は違うの?」

「同じようなものだけど、皇帝様は神様と同じぐらい強いのよ」

「そうなんだ」

理解したのかしていないのかは定かではないが、どうやら納得した様子だった。


 リースは子供を寝かせに戻った。

しばらくしてリースが戻ってきた。

それと同時に森が騒めき始めた。

夜も遅いのに一斉に鳥たちが飛び立つ。

リースとティアラはお互いの顔を見た。

「何か来ますね」

「そうみたい」

二人は立ち上がり周囲を警戒しながら、行商人を起こす。

ついでにテリウスも起こす。

「どうしたんですか?」

行商人の一人が状況を理解できない状態で問う。

「何か来ます。気を付けてください」

「僕見てきます」

そう言ってテリウスは走り出した。

「ちょ、テリウス」

ティアラの声は既に届かず、テリウスの姿は見えなくなっていた。


リースは火を消して、腰に手を掛ける。

「うあー」

テリウスが叫び声と共に二人の元に走って戻ってくる。

「どうしたの?」

ティアラがテリウスに問いかけると

「オーガとデザストルです」

「デザストルですって」

ティアラは驚いている。

「デザストルって何?」

リースは聞きなれない言葉に質問する。

「デザストルとは『災害』の名を持つ魔物です」

「それって強いの?」

「はい」

「昨日のあれより?」

「あれ?あ、『タリスマン』ですか?」

「そう」

「あれよりは弱いです。ただ、群れで行動するので『タリスマン』よりやっかいです」

「群れ?一体どれぐらい?」

リースの問いに

「五体から十体と言ったところでしょうか」

ティアラは答える。


「で、どれぐらい確認出来た?」

ティアラがテリウスに聞くと

「二十体以上います」

「そんなに?」

「しかし、向かってきているのは一体だけです」

ティアラは考えるように目を閉じた。

「リースさん、オーガとデザストルの一体はお願いできますか?」

リースは黙って頷く。

「テリウスはリースさんのサポートと行商人さん達をお願い」

「はい」

元気よく返事をするテリウス。

「ティアラはどうするの?」

「後ろに控えているデザストルを片付けます」

「え?一人で?」

「はい」

「無茶よ」

リースは心配そうな表情で言う。

「大丈夫です」

笑顔で答えるティアラ。

「ティアラ様、お気をつけて、力を解放します存分にお使い下さい」

テリウスはそう告げるとティアラの腕についていた腕輪を外す。

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