第02話 ギルド『銀の部屋』

 ルクレット王国にあるメザルという町の宿屋で目を覚ますティアラ。

トントン

部屋をノックする音に

「はい」と返事をして扉を開ける。


そこにはテリウスが居る。

「ティアラ様、お目覚めになられましたか」

「ええ」

「食事の用意が出来ております」

「え?テリウスが作ったの?」

「まさか、宿の者にお願いしておきました」

「そうありがとう。すぐに降りるわ」

そう言って扉を閉めた。


ティアラは着替えを済ませ、部屋を出る。

部屋の外にはテリウスが待っていた。

二人で食堂に向かった。

食堂に入ると数名の客が既に食事をとり始めている。

一人の女性がティアラ達に近づき、席に案内してくれた。


テーブルにはライ麦のパンと野菜のスープ、そしてミルクと質素な物だった。

食事を終えた二人は、これからの事を話す。

「ティアラ様、これからどうなさるおつもりですか?」

「そうね、とりあえず情報を集めないといけないから、ギルドにでも登録しようかと思っているわ」

「ギルドですか?」

「ええ」


『ギルド』正確には『加護者ギルド協会』という名称なのだが、簡単に言えば冒険者組合みたいなものなのだが、入会には絶対的な一つの条件が必要だった。


それは契約を済ませた『加護者』と呼ばれる者のみがギルドに入会できる。

『加護者』とはこの世界には目に見えない様々な存在が居る。

それらの中には『精霊』『天使』『神』『龍』といった存在がいる。

それらと契約することで『魔法』と呼ばれる特殊な能力を使うことが出来る。

そして契約をした者の事を目に見えない存在から加護を受けたという事から『加護者』と呼んだ。


ギルドは大陸の北に位置する『ルートデイン皇国』に本部を置き、大陸中に存在している。

「ギルドとは何でも屋ではございませんか?」

「そうね。町の人たちの依頼を受けて解決するみたいなことでしょうね」

「そのような俗世をティアラ様がする必要などないと思われますが」

「その分、色々な情報が入ってくるのも事実よ。それにギルドは大陸全土に支部があるのよ。情報が集まりやすいと思うわ」


「しかし……」

「テリウス、もう決めたことです。心配ならあなたも一緒に登録しなさい」

ティアラの言葉に言葉を詰まらせるテリウス。

「自分はまだ、契約を済ませていない身です。ギルドには登録できません」

ティアラはテリウスの言葉に

「あ、ごめんなさい」

申し訳なさそうに謝った。

「いえ、仕方のない事です。自分にはまだ能力が足りないだけのこと」

「すぐに契約出来るわ。そして騎士にもすぐになれるから」

慰めるようにティアラは言った。


 宿を後にした二人はギルド『銀の部屋』に向かう。

それほど人口の多くない町。道行く人は数人で典型的な田舎の町だった。

ティアラはここではあまり情報を得れないかもしれないと感じていた。


ギルドの前まで来て扉を開ける。

ギルドの中は町の風景とは異なり、たくさんの人が押し寄せていた。

その中心には黒い短髪の剣士風の男が居る。黒いマントとまさに黒ずくめの姿。

ティアラ達はその人物を横目にカウンターに向かう。


「あの、すみません」

ティアラの声にカウンターの奥から一人の男が出てきた。

胸には『銀の部屋』のマークを付けている。

「君は」

男の反応に、ティアラも気づいた。

昨日、町の入り口で会った男だった。

「あなたは、昨日お会いしましたね」

「そうだね。君にはこの町を救ってもらったのに何もお礼をしていなかったね」

「別に大したことはしていませんよ。連れを助けただけですから」


そう言ってティアラはテリウスを見る。

「いや、しかし、君は一体何者なんだい?」

「ただの旅人です」

ティアラはあっさりと答えた。


「君が昨日、『タリスマン』を倒したという子だね」

後ろから声を掛けられ振り返る。

先ほどの黒ずくめの男が立っている。

よく見ると顔立ちが整っていて綺麗な男だった。

「はい」

「古代魔法を使うと聞いたが」

「はい」

「君の名前を教えて貰えないかな?」

「何故ですか?」

「君の事を知りたくて」

「特に話すことはありません」

そう言うとティアラはカウンターの男に視線を移し

「ギルドに登録をしたいのですが」

黒ずくめの男を完全に無視する状態になった。


「えっと」

カウンターの男は黒ずくめの男とティアラを交互に見ながら困惑している。

ティアラは黒ずくめの男と先に話さないと登録は難しいと悟った。おそらくこの黒ずくめの男はギルドでは地位の高い人物なのであろうと。

ティアラは再び振り返り

「ティアラです。ティアラ・ノースです」

自らの名前を名乗った。

「そして、こっちにいるのはテリウス・ライナーです」

ついでにテリウスの紹介もした。

「そうか、俺はマーク。マーク・エランロードだ」

「あなたが、『闇王』マークですか」


ティアラには聞き覚えがあった。

『王』の位を所持している人物。

大陸中にその名は知れ渡っていた。

「俺を知っているのか?」

「はい。『王』の位を所持している人物などそうそういませんから」

「なるほど。そういう君はどうなんだ?」

マークはティアラに問う。

「どうとは?」

「君も『王』の位ではないのか?」

「何故?」

「古代魔法など『王』の位以外に使えるものが居るとは思えない」

「なるほど、そうですね。確かに私は

ティアラはあっさりと答えた。


「君の能力は一体」

「それはお教えすることは出来ません」

拒絶するティアラ。

「そうか。分かった」

マークはあっさりと引いた。

「もうよろしいですか?」

「ああ、ありがとう」

返事を聞いてティアラは振り返り


「ギルドに登録したいのですがどうすればいいですか?」

カウンターの男に再度聞いた。

「えっと、この水晶に手をかざして、そしてこの書類にサインを」

カウンターの男は水晶と書類を出した。

ティアラは言われるまま水晶に手をかざす。

すると自動的に書類に文字が刻まれていく。

刻まれた文字は、名前と日付。そして得意な属性。そしてランクが表示される。『第5級』と記載されている。契約した存在の名前などは記載されていない。

その書類にサインをすることで登録は完了した。


「隣の少年はいいのかい?」

カウンターの男はテリウスの事を言っている。

「はい。彼は加護者ではございませんので」

「そうかい」

申し訳なさそうにカウンターの男が言った。

ティアラは周りを見渡す。

カウンターのすぐ脇にボードのようなものが置いてあった。

そのボードの前まで行って眺める。


「あー」

突然の声に振り向くと、昨日会った女が入り口に立っていた。

リースは慌ててティアラに駆け寄る。

「昨日は本当にありがとう」

「いえ、別に大したことはしていませんので」

ティアラの言葉など耳に入っていないのであろう、リースはティアラの手を取って、

「ティアラ、本当に凄いよね」

「えっと、あの」

「ねぇねぇどうしてあんなに強いの?」

「あの」

「うん?」

「離していただけますか?」

「あ、ごめんごめん」

ティアラの手を離してから

「どうしてあんなに強いの?」

再び尋ねる。

「別に強くはありませんが……」

「何言っての。ティアラは相当強いよ。何て言ったってあの『タリスマン』を一撃で倒すなんて凄すぎでしょ。あ、私はリース。リース・バイアランド。リースでいいわ」

「はあ」

リースのテンションが高すぎてついていけないティアラは曖昧な返事をした。


「リース。彼女は既にうちに登録済みの加護者だ」

カウンターの男がリースに向かって言った。

「え?そうなの?」

「はい。たった今、そうなりました。これからよろしくお願いします」

ティアラはそう言って頭を下げた。

「こちらこそよろしくね」

リースは満面の笑みで答えた。

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