雷帝少女ティアラ

はくのすけ

第一章 ティアラという少女

第01話 古代魔法

 大陸『ランドレル』の南の小国『ルクレット王国』の『メザル』という町で男が話している。

「このままでは、このメザルの町もまずいことになるのでは」

髭を生やした男は緊張した面持ちで話す。


「王都から、『マーク』様が来て下さると連絡はあったのだが……」

カウンター越しで答える男の胸にはギルド『銀の部屋』のマークが刻まれている。

「あの『闇王やみおう』が来て下さるのか?」

「そうだ」


「しかし、間に合うのか?」

「分からない……しかし我々は待つしかないだろう……」

「そうかも知れんが……奴がこのメザルに来るのも時間の問題だぞ」

「分かっている……しかし、今このメザルに奴を退治出来るものなど居ないのだ」

二人の男は同時にため息をついた。


「それなら、私に行かせて」

二人の会話聞いていた、少女が名乗りを上げた。

「リース、お前には無理だ」

リースと呼ばれた少女は桃色の長い髪を後ろで結ってから

「そんなの分からないじゃないか」そう答えた。


「あれを退治出来るのはこの国ではマーク様だけだろう」

「たかだか魔物一匹でしょ?」リースは尚も食い下がる。

「ただの魔物ではない。あれは『タリスマン』と言って神の守り神とも呼ばれているものだ」

「たかだか魔物に大層な名前ね」リースはあきれた表情で、二人に背を向けて


「駄目だと言われても私は行くから」そう言ってギルドから出て行こうとした。

「待て」

髭を生やした男がリースの腕を掴む。

「何よ。話してよ」

抵抗するリースに、髭を生やした男は

「落ち着け。本当にあれには挑まないほうがいい」

「どうしてよ?」


「あれは『ランクS』クラスでないと倒せない」

「え?『ランクS』?」

驚くリースは抵抗を止めた。

抵抗を止めたことを確認して男はリースの腕を話した。


ギルドの中にいる全員が声を失っている。

外の風の音だけが聞こえてくる。

「ど、どうするのよ?」

リースはカウンター越しの男に叫んだ。

「だから、マーク様が来るまで何とか耐えるしかあるまい……」

「いやいや、どう考えても間に合わないでしょ?」

「だから、なんとかするしかないのだ」

絶望的な状態だと皆が気付いていた。


その時、ギルドの扉が開かれた。

「大変だ!奴が、奴がもうすぐそこまで来ている」

慌てた様子で入ってきた男は息を切らせながら叫んだ。

「なんだって!」

カウンター越しの男が叫ぶと同時に、リースは走り出した。


リースを追って次々と男達が走り出す。

町の入り口まで走ってきたリースはそれを見た。

人の三倍以上あるその異様な姿。

二足歩行で体はぶよぶよとしている。

白い姿は悪魔そのものだった。


「なんてことだ……」

リースの後を追ってきた男達が声を揃えて言った。

その声は絶望に近い声だった。

リースの足は震えている。

あれに挑もうとしたことを今更ながら後悔していた。


「あれは?なんですか?」

突然の声に体がビクと反応した。

リースに話しかけたのは金色の髪をした少女だった。

町の入り口に立っていた少女は、少し大人びた表情を覗かせる。

その蒼い瞳に吸い込まれそうになる。


「あ、あれは魔物よ」

リースは少女に告げると

「そうでしょうね。それは分かります。でも少し普通では無いようですけど……」

少女はとても落ち着き払っている。


「あれは『タリスマン』と言って普通の魔物とは少し違うのよ」

少女に諭すように説明する。

「あれが『タリスマン』ですか」

「知っているの?」

「はい。名前だけは。実際に見るのは初めてです」

少女の口元が緩んだ。


「あ、あなたは早く行きなさい」

リースは少女に逃げるように促す。

少女はリースの目をじっと見つめ

「お心遣い、痛み入ります」

そう言って町の中に入っていた。

「君は?」

立ち去る少女にリースは声を掛ける。


「私は『ティアラ』と言います」

ティアラと名乗る少女は振り返り、リースに告げた。

「ティアラ、気を付けてね」

「はい。ありがとうございます」

ティアラはそう言い残し町の中に消えていった。


「それでどうするの?」

リースが男達に声を掛けるが、

「どうするってどうする?」

「だから私が訊いているの」

「いっそみんなで逃げるか?」

「何馬鹿な事言ってるの」

「やっぱり駄目だよな……」

「当たり前でしょ!町の人を見捨てるなんてそれでも『銀の部屋』の一員なの」


リースは先ほどの恐怖が消えていることに気付いた。

何故恐怖が消えたのかは分からなかったが、依然、タリスマンに勝てる気がしない。

「おい!あれ!」

一人の男が町の外を指差した。

そこには一人の少年が必至で走ってきている。

タリスマンから逃げるように。


「何?あの人」

「分からないが……かなりまずくないか?」

「そうね……助けに行かなきゃ」

リースは腰に手を当てる。

この魔導銃でどこまで出来るか分からないけどやるしかない!


「そう言えば、忘れていました」

後ろからの声に全員が振り向く。

ティアラが立っていた。

「どうして戻ってきたの?」

リースは強い口調でティアラに言うと

「連れの事を忘れていました」

無表情のまま淡々と話すティアラはリースの前に出た。

「彼です」

指差した方向にはタリスマンに追われている少年の姿がある。


「もしかして知り合い?」

「はい。私の連れです」

「それなら、私たちがなんとかするから」

「無理ですよね?」

ティアラはリースの言葉を遮るようにはっきりと言った。

「そ、それは……」

言葉を詰まらせる。


「私が行きます」

ティアラはそう言うと、町の外に出ようとする。

「駄目よ!」

リースがティアラを止める。

「何故止めるのですか?」

「危険だわ」

「大丈夫ですよ。あれぐらい」

ティアラの表情は依然無表情だった。


「絶対に駄目!」

あくまでもリースは行かせないつもりなのだろう。

ティアラの腕をしっかりと掴んだまま離そうとしない。


「分かりました。ではここからやります」

「え?」

ティアラはリースの手を振り払うと

「テリウス!避けてね」

大声で叫んだ。

ティアラは右手を前に出し、タリスマンに向けた。

ティアラの手にみるみる黄色の光が集まってくるのが視認出来る。

周囲の空気がパチパチと音を立てながら、圧縮されていく感じが分かる。

「我が裁きは絶対の正義、その身をもって受けなさい。『トールハンマー』」と叫んだ。


ティアラの手からほとばしるほどの黄色の光がタリスマン目掛けて飛んで行った。

タリスマンに命中した。

その直後激しい振動と光、爆風がリース達の元に届く。

ティアラの金色の長い髪が爆風でなびく。

その姿はまるで女神のようにも見える。

そこにいる全ての者がティアラをそう見えたに違いない。


やがて光が収まり、周囲が静まり返っていく。

「テリウス!無事?」

「なんとか……」

微かに少年の声が聞こえる。

「終わりました」

ティアラはリースに告げるとテリウスと呼ばれた少年の元に歩き出した。


「何?あれ?」

自然と出た言葉。

リースはティアラに聞いた。

「魔法です」

「それは分かるけど、あんな魔法見たこと無いわ」

「あれはエンシェントですから」

「エンシェント?」

「古代魔法です」


古代魔法。封印されし古代の魔法。あまりにも強大な力だったために、封印することを余儀なくされたいにしえの力。

それを使える人間など居ないはずだった。

リースはそう信じていた。

しかし、実際に目の前で見てしまった。

「あなた、古代魔法が使えるの?」

「はい」

何も無かったかのような口振りで答えた。

その言葉にリース達は言葉を失うのであった。

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