第08話 『シグナルレンジ』

 先ほどの騒ぎで村人が起きだし、テリウスの周りに集まってきていた。

「これは一体何の騒ぎだ?」

「お前たちが何かしたのか?」


「これはですね……」

 おどおどするテリウスの姿を見たリースは村人の前に躍り出る。

「皆さんお騒がせして申し訳ございません。先ほど魔物がこの村近辺に現れましたので退治したところです」

「魔物?」

「はい。大きな四足歩行の魔物です。どうやらこの村の作物を狙って現れたみたいです」

「作物を!」

「それであんたらがやっつけてくれたという事か?」

「はい。これでしばらくは現れないと思います」

 リースは村人たちに笑顔を見せる。

「ほいか」

「ありがとな」

 村人たちがリースにお礼を言い、おのおの家に帰っていた。


 ゆっくりとティアラがリースに近づく。

「お見事です」

 ティアラの言葉に

「これぐらい朝飯前よ」

 リースは笑顔で返す。


 宿の一室でリース達は話し合っている。

「まさかティアラがあの雷帝だったなんて」

「黙っていて申し訳ございません」

 ティアラは深々と謝罪する。

「別に良いんだけど、隠す必要があったってことでしょ?」

 気にしていない様子のリースに

「……隠す必要とかは特にはありませんでしが、ただ、あまりこの力を人に知られるのは……その……」

「うん。分かったから良いよ」

 歯切りが悪いティアラにリースは無理に話さなくても良いと言う。

「ありがとうございます」


「ところで、この際だから聞いても良い?」

「……なんでしょうか?」

 ティアラは身構える。

「いくつかあるんだけど、まずティアラの持っていた剣の事」

 見る者を圧倒するような黄金に輝く剣。

 リースは剣を頭に思い浮かべながら聞いた。

「あれは『カサンドラ』と言います」

「雷の聖剣とかって言われていたわね?」

「はい。あれは聖剣の一本です」

「え?聖剣って何本もあるの?」

「私が知る限りでは三本あります」

 リースの口は驚きで開く。


「リースさんは『七伝説』ってご存知ですか?」

「『七伝説』?」

「その昔、神と邪神の戦いに、神が七人の使いを人類に遣わせました。その七人の使者と人類は協力して邪神を封印することに成功したと言うお話です」

「聞いたこと無かった」

 リースは初めて聞く話に興味が湧いた。

「それで邪神を封印した後、七人の使者はどうなったの?」

「七人の使者は人類に協力する時に自らの体を剣に変えたそうです。その剣が世界には七本存在すると言われています」


 ティアラの説明でリースは気付いた。

「『カサンドラ』ってまさか……」

「はい。そのうちの一本です」

「凄い!ティアラって凄すぎでしょ!」

 テンションが高くなるリースに冷静にティアラは言った。

「私の存在が所持していたから必然的に私が持つことになっただけです」

「ねぇねぇ他の剣の事は?」

「他の剣ですか?」

「うん」

 ティアラは一呼吸を置いてから


「まずは聖剣だと、

 風の聖剣『エクスカリバー』

 光の聖剣『アシュケロン』

 次に魔剣だと、

 炎の魔剣『レーヴァテイン』

 氷の魔剣『デュランダル』

 闇の魔剣『ジョワユーズ』

 最後に聖剣と魔剣とも違いますが、

 星の神剣『フォーマルハウト』

 と言ったところでしょうか」


 ティアラの説明を目を輝かせながら聞いていたリースは

「凄い!その剣は誰が持ってるかとか知っているの?」

「知りません。ただ、『デュランダル』は知っています」

「誰?誰?」

「私の知り合いです」

「あ、エリナって人?」

 リースの口からエリナの名前が出たことに驚くティアラ。

「何故?エリナをご存じなのですか?」

「この間、ティアラが不思議な機械で話しているのを聞いた」

 王都の宿で話していた内容を聞いていたリースが答えた。

「そうですか……これは私の不注意ですね……」

「それでそのエリナって人が持っているの?」

「……はい」

 ティアラは何か諦めた様子で答える。


「そのエリナって人は何者?」

「私と同じ騎士です」

「同じ騎士?」

「同じ組織に属している騎士です」

「ティアラの組織って?」


 これ以上リースに隠し事をしても意味が無いと判断したティアラは組織の全容は明かさずに話し始める。

 ティアラの所属する組織は『シグナルレンジ』と言う組織で、主に犯罪組織の調査や撲滅と言った仕事をこなしている。

 どこの国にも属さずに、ただ自分達が悪だと判断した組織を対象としていた。

 そして、今、調査中なのが『サイクロプス』通称『一つ目』と呼ばれる組織だった。

『一つ目』の目的やメンバーなどは全て闇に包まれていて、知る者はほとんどいない。


「ティアラの強さの秘密が少しだけ分かった気がするわ」

 話を聞いたリースは両手を後ろに組み、ティアラの顔を下から覗き込む。

 ティアラは少し照れた表情で笑みを浮かべた。

「あ、ちなみにテリウスは組織での立場はどうなの?」

 思い出したかの様にテリウスに視線を向けた。

「僕は騎士たちの従者です」

 なんとも頼りない従者だこととリースは思う。

 その他にも色々と聞きたいことがあったリースであったが、ティアラの様子を見て聞くことを止める。

 また次の機会にでも聞ければ良しと思い、リース達はそのまま眠りにつき夜が明けた。


 翌朝、リース達は村を後にして王都に戻ることにした。

 王都までの道のりの途中で立ち寄った村で、ティアラは怪しい集団に気付く。

 周囲を警戒するように話し合う人々。

 それなり良い身なりで働き盛りと言った感じの者ばかりだった。

「リースさん」

「うん?どうしたの?」

「あの方たち……何か怪しくありませんか?」

 ティアラはその集団を目で示した。

「うーん……どうだろう?」

「私の考えすぎでしょうか?」

 リースはティアラの顔を見る。


 ティアラは真剣な眼差しで集団を見ていた。

「どうして怪しいと思うの?」

 リースの質問にティアラはリースに視線を戻し、

「何か隠し事をしているような……周囲を警戒している所も少し怪しいと思いました」

 ティアラは感じたままを説明する。


 リースは集団に目をやり一つの事に気付く。

「あれってマルシェ商会の標章だよ」

 リースの言葉にティアラは再び集団に目を向けた。

 集団が持っている荷物に確かに標章がついていた。斜め線の両サイドに丸が二つ、それが一本の線で繋がっている標章が。


 マルシェ商談はルクレット王国の王都を拠点に国内最大規模の商人集団で有名だった。

 取り扱う商品は様々で食料品はもちろん日用品、不動産なども手掛ける。

 噂によると武器や人身売買にまでその手を伸ばしていると言う話だがあくまでも噂だった。

「確かにマルシェ商会の物ですね」

「秘密の商談なんじゃない?」

 リースの言葉に納得するように頷いたが何かが引っかかっていた。

 しかし、リースもテリウスも別段何も無かったかのように村を出ようとする。

 ティアラは考えるのを止め二人の後を追った。

 そして王都に戻る。

 宿に直行しリース達は眠りの魔法にかかったかのように眠った。

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