第二章 王立魔導学園
第09話 カルディ・レイフォード
リース達がコルディ村より戻ったその朝の王都はいつもより慌ただしかった。
マルシェ商会の商人たちが何やら慌ただしく動き回っているみたいだった。
『王立魔導学園』に向かう生徒たちの中に一人の少年が慌ただしい王都の様子を観察しながら歩いていた。
少年は端正な顔立ちで少女のようにも見える。
青い髪に金色の瞳が見る者を魅了するかのような少年。
少年の名前は『カルディ・レイフォード』カルディはルクレット王国の生まれではない。
『ルートデイン皇国』の出身だった。
ルートデイン皇国で『レイフォード』と言えば知らない者が居ないと言うほど有名な家である。
レイフォードは代々、ルートデイン皇国の伯爵家であった。
十五年前に起きた『第一次ランドレル大陸大戦』で父を失った。
その頃、一歳にも満たないカルディは母と共にルートデイン皇国を離れ、非戦争国であったルクレット王国に移り住んだ。
レイフォードは当主を失い分裂するかに見えたが、叔父である『ロバート・レイフォード』を後見人として姉の『セシリー・レイフォード』が当主の座に就いた。
当主の座に就いた時のセシリーの年齢は、わずか三歳だった。
その後、叔父の働きもあり、レイフォード家は伯爵家として戦後の復興や国力の強化などに力を入れて、現在でも没落することなく貴族のままでいる。
カルディが十歳を迎える頃に一度、実家であるレイフォードの家に帰省している。
それ以来、年に数回程度、実家に戻ることが恒例行事となっていた。
カルディは少し不機嫌そうな表情で王都を行き交うマルシェ商会の商人たちを見ながら学園に向かった。
「レイフォード」
後ろから声を掛けられ振り向く。
「エマーブル先輩」
カルディは後ろから声を掛けた少年に向かって言う。
エマーブルと呼ばれた少年は赤色の短い髪を器用に立てている。
がっしりした体格とビシッとした姿勢。
着ている学生服は乱れることなく綺麗に整っていた。
「今日、試験だろ?」
「はい」
「大丈夫か?」
エマーブルは心配そうな表情でカルディを見つめた。
「……はい……多分……」
「まぁ自分の出来る範囲で頑張れ」
不安そうなカルディに優しい言葉で励ます。
カルディはこの王立魔導学園での成績はあまり芳しくない。
魔法の基礎理論や精霊魔法論、文字魔法論、物理魔法論等の学科系は群の抜いて高い。
しかし、実技になると全くと言っていいほど駄目だった。
同じ魔法をカルディと別の者が発動させると威力の差が歴然というぐらいに弱い。
炎系の魔法で一人が標的の人形を焼き尽くすのに対してカルディが放つと焦げる程度だ。
そんな状態でよく学園に入れたのが謎である。
王立魔導学園はいくら知識があって学科が優秀でも実技である魔力が最低限なければ学園の門をくぐることが出来ない。
その為にカルディは周りから白い目で見られることが多い。
当の本人であるカルディは別段気にしていない様子であるのだが……
カルディとエマーブルは二人揃って学園に向かう。
「それにしても今日は随分騒がしいな」
エマーブルも今日は慌ただしいと感じたのであろう、眉をひそめながら、王都を行き交う商人を見ながら言った。
「はい。何かあったのですかね?」
「さあな……うん?あれってマルシェ商会?」
エマーブルは目を細めながら商人の標章を見る。
「そうみたいですね」
「おいおい、マルシェでトラブルとかシャレにならない話かも知れないぞ」
この国でマルシェがトラブルになると国の経済が著しく落ちる。
過去に数回その様な事があった。
それだけマルシェの経済への影響力が高いという事に他ならない。
カルディは無言のまま行き交う商人を眺め、ふぅとため息をついた。
これから作戦を開始するにあたり、商人たちが弊害にならなけば良いが……
カルディは心の中でそう呟き、学園に足を向ける。
学園に入ると周りの生徒たちがピリピリとした張り詰めた雰囲気で何か落ち着かない様子だった。
それもそのはずで今日は実技の試験があるのだから皆が皆、一応に緊張をしている。
そんな中、カルディだけがいつもと変わらない様子で教室に向かう。
「レイフォード!試験頑張れよ」
そう言ってエマーブルも自分の教室に向かった。
教室では一部の生徒が目を瞑り瞑想状態になっていた。
「アシュワード」
カルディは瞑想中の男子生徒に声を掛けるが直ぐに話すのを止めた。
瞑想の邪魔をするわけにはいかないと判断したからだ。
『アシュワード・ブレッド・フォーバルン』アシュワードのフルネーム。
フォーバルン家の長男で父親は王国の近衛兵の隊長を務めている。
父である『ゴードー・セスタス・フォーバルン』は王国軍の中で最高クラスの強さを誇る。
ランクにして『AA《ダブルエー》』クラスの加護者で、王国軍の中で『A』クラス以上はゴードーしか居なかった。
そんなゴードーでも王国最強は名乗ることが出来ない。
なぜなら、『闇王』マーク・エランロードが王国には存在するからだ。
マークのランクは『S』クラスに分類される。
『S』クラスになるとその名声は国家を超える。
この世界の加護者の強さを表すのはランクと呼ばれる順位である。
そのランクは『F』→『E』→『D』→『C』→『B』→『A』→『S』の順番になっている。
さらにそれぞれのランクに細かい順位もある。
『A』→『AA』→『AAA《トリプルエー》』いった具合にそのランクのアルファベットが増えていく。
上位のクラスになればなるほど人数は少なく、最高ランクである『SSS《トリプルエス》』に至っては世界で十人しかいないと言われている。
ランクを決定づけるのは審査が必要であり、それは大きく分けて二種類あった。
世界魔導管理局と呼ばれる機関が認定する試験と三人以上の加護者の元で行われる試験との二種類だ。
三人以上の加護者の元で行われる試験は後に世界魔導管理局にその試験の内容が報告されて世界魔導管理局が認めればランクが上がると言った具合だった。
世界魔導管理局が認定する試験に合格するとその知名度は一気に知れ渡るのに対して、三人以上の加護者の元で行われる試験に合格してもその知名度はあまり高くない。
よって世界には知られていない高ランクの人物が大勢いると言われている。
そして今日、カルディが受ける試験は世界魔導管理局が認定する試験に位置づけられる。
その為か皆が皆、ひとつでも上のランクを目指そうと真剣なのだ。
王立魔導学園でもっともランクが高いのは『BB』クラスである『ルフィーナ・ミストルティン』と呼ばれる三年生の女子生徒だ。
そのクラスになるとギルドや王国軍からの勧誘が後を絶たない。
ちなみにカルディのランクは『E』ランクとかなり低い。
実技の成績が芳しいうえにこう言った試験でも散々な結果だからだ。
「では試験を開始しますので、試験を受けられる生徒の皆さんは試験会場のほうへお越しください」
教室に放送が流れ、皆が皆、緊張した面持ちで席を立ち、試験会場に向かった。
カルディも会場に向かう生徒たちと一緒に向かう。
「まずは存在の確認をします」
王立魔導学園の生徒は全員、存在と契約している。そのために魔法と言う奇跡が使える。
検査は至ってシンプルでテーブルに置かれた水晶に魔力を少し浴びせるといった簡単なものだ。
そうすることによって水晶の横にセットされた羊皮紙に文字が刻まれる。
刻まれる内容は存在の名前や属性、そして位だ。
この世界にはランクとは別に位と言う順位もある。
その位とは契約している存在の位を意味し、もっとも高い位が『神』『帝』で次に『王』
『公』『天使』『悪魔』となる。
その次が『
この位とランクの関係は密接して、位の高い存在と契約している者は高いランクとなる可能性が高いのだが……
「凄い!これほどの存在と契約するなんて!」
カルディの検査で検査官が驚愕の声を上げる。
羊皮紙にはこう刻まれていた。
『名前:セーレ』
『位 :悪魔』
『属性:鉄』
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