第14話 決着
リースの指が動く。
その瞬間、左に旋回するためにルフィーナは走り出した。
銃口から稲妻みたいな閃光が走った。
ルフィーナ目掛けて放たれた稲妻をかわすことなど出来る筈もない。
たとえルフィーナがトリガーに掛かる一瞬の指の動きだけで予測して動いたとしても。
光の速さで放たれる稲妻などかわしようが無い。
直撃!誰もがそう思った。
しかし、信じられない光景がそこにはあった。
リース自身も信じられないといった表情しか出来なかった。
稲妻がルフィーナの手前で大きく向きを変えて空高く上空に外れたのだ。
「我が理をもって全てを破壊せよ!」
ルフィーナは自身が持つ最大の魔法の呪文を唱えながら、リースとの距離を詰める。
「プリュ・フォール・デストリュクシオン!」
杖をリースに向けて放たれた球体がリースに襲い掛かる。
直撃した。今度は障壁を張ることも出来ずに。
ルフィーナは爆発で舞った粉塵目掛けて突き進む。
一気に勝負を着けようとしていた。
直接、杖で攻撃できる距離まで詰めることに成功した。
ルフィーナは切り札を切ろうとしたその時、
目の前に鋭い氷の刃があった。
無意識に動きを止めて後方に下がる。
やがて粉塵も晴れて、その氷の刃の正体を知る。
リースの銃口から氷の剣が形成されている。
「この魔導銃『ライトスター』はね、特別性なのよ。大体、銃を持っている相手には近接戦で戦えば勝てるなんて思っている人多いでしょ?だからその油断を逆手にとって、こういう事を出来るようにしておいたのよ」
リースは笑みを浮かべながらルフィーナを見つめる。
「なるほど、あのまま近接戦に持って行ったら確実に負けていましたね」
額から汗が流れ落ちるが拭おうともせず、じっとリースを見つめてルフィーナは言った。
「それより、どうしてさっきのサンダーをかわせたのか知りたいわ」
先ほどのリースが銃で放った稲妻の事だろうと思い、
「あなたの銃が魔導系だと思って一つ対策をしました」
「対策?」
「はい。放たれるのは魔法だと思ったので、私自身の前に圧力の波を掛けておきました」
「……なるほど、気圧の変化で対応したという事ね。凄いじゃない!」
感心した様子で両手を叩く。
「それで、その距離でいいの?」
リースとルフィーナの距離は銃のリースのほうが優位な距離だった。
「その氷の剣を出している間は、銃で魔法は使えないと判断しました」
「ご明察」
嬉しそうに話すリースは銃口から出ていた氷の剣を消して銃口をルフィーナに向ける。
「次はどうする?」
ルフィーナは先ほどと同じように圧力の魔法を周囲に掛けた。
これでどこから魔法が放たれても直撃することは無いと判断して。
リースの指がトリガーに掛かり引かれた。
バーンという音と同時にドスっと何かが左肩を貫いた。
言葉では言い表せないほどの痛みが左肩に広がっていく。
左肩から血が溢れ出てくる。
何?
どういうこと?
ルフィーナは混乱している。
「特別性って言ったでしょ?弾道系も使えるのよ」
ルフィーナの表情はこれ以上ないほど驚いている。
そんなことはあり得ない。
弾道系と魔導系を併せ持つ銃なんて……
しかも接近戦までこなせるのだから万能すぎる。
ずるずると後退りするしかないほど痛みだった。
「ずるい……」
思わず出た言葉だった。
「あは、これが私の戦い方よ」
意地悪そうな笑みを浮かべながらリースは言う。
これがランク『A』の加護者の力。
再認識させられる。
学園で一番のランクと自分のミストルティンの名でちやほやされていた自分が情けなく思えるほどにリースの力は圧倒的だった。
このままでは確実に負ける。そして試験も不合格で終わってしまう。
焦り始めたルフィーナの鼓動は段々と早くなる。
どうする?どうすれば一矢報いることが出来るだろうか?
自分の上位魔法では相手を倒すことは出来ない。
ダメージは確かに通っている筈なのに……
とにかく適正距離を見極めなければ駄目だ。
ルフィーナは今出来るであろうことを最大限考える。
左肩がマヒしている。
もう長くは立っていられない。
やるべきことは一つ。
自分の持てる全てを出し切らなければ、負けたとしても後悔が残る。
「じゃあ、私も本気出すからね!」
リースの言葉に思考が一瞬止まる。
ルフィーナはゆっくりとリースを見る。
リースは銃を腰のホルダーに収めていた。
ジワリと汗が湧き出ているのが分かる。
何か対策を練らなくては……
ルフィーナは直感でリースがとんでもない魔法を使うと分かった。
「龍の顎より生まれし精霊よ……今此処に持てる全てを解放せよ!」
リースは両手を広げ呪文を唱える。
ルフィーナの周囲の温度が上がっていく。
ルフィーナは杖を握る手に力を込めて、リースとの距離を一気に詰める。
そしてリースに触れるか触れないかという位置で叫ぶ。
「リュミエール・クレエ・リニュヌ!」
それと同時にリースも叫んだ。
「チェイン・ボムレイン」
ルフィーナとリースの周囲には三重の魔法陣が展開され、上空より光の柱が魔法陣中心に広がる。
その光の柱の周囲では連続して爆発が起こる。
二人の魔法が衝突しあい弾け飛ぶ。
激しい爆発音と閃光で周囲が光に包まれる。
ゆっくりと視界が回復していくと会場には前のめりに倒れそうになったルフィーナをリースが支えていた。
「そ、それまで」
試験官の声が一瞬の沈黙を破る。
こうして二人の勝負はリースの完全勝利に終わった。
「この子は間違いなくランク『A』ね」
リースは気を失ったルフィーナを抱きかかえて試験官に聞こえる声で言った。
リースの発言で世界魔導管理局はルフィーナをランク『A』の加護者に認定するだが、この時のルフィーナはまだ知らない。
盛大な拍手共にリースはルフィーナを抱えたままで試験会場を後にした。
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