第18話 ガーゴイル戦

 王都を出発して、湖に沿ってひたすら南西に向かって、半日ほどたった。

 日の光が真上より少し傾いた頃に、目的の遺跡に到着する。


 遺跡の周囲は木々が生い茂り、如何にも何かありますっていった感じの森深くにあった。

 遺跡の手前は少しくぼみがあり、四方には塔のような柱の残骸があった。

 何かの儀式に使われそうなその広間は、酷く廃れ、見るからに廃墟だと分かる。


 正面に見える崩れていない二本の柱の奥に入り口と思しき場所のあった。

 その二本の柱の上には、見るからに不気味な石像が置かれている。

 目が鋭く上がり、頭には二本の角、口と鼻は大きくて、背中には少し大きめな翼がある。

 その石像はまるで、この遺跡を守っている守護者のようにも見えた。


「ずいぶん、気持ち悪い石像ね」

 リースはまじまじと石像を見ながら言った。

「そうですね。それにこの石像だけなんだか新しいですね」

 リースに答えた、ルフィーナの言葉にティアラがすぐに反応した。


「二人とも離れてください」

 大きな声でティアラがリースとルフィーナに言った。

「テリウス、調べて」

 続けてテリウスに指示を出す。


 テリウスはティアラの言葉に従い、石像と入り口付近を何やら薄い板の棒を出して調べだした。

「結界が張られています」

「結界?」

 テリウスがティアラに告げると、リースが不思議そうにティアラを見る。

「そうですか……」

「どういうこと?」

「侵入者を防ぐという意味で、こういった遺跡には良くあることなんですが……それは誰も一度も踏み入れたこと無い遺跡に限っての話で、この遺跡は既に調査を行われています」

「とういことは?」

 リースはなんとなく続く言葉が分かった。


「おそらく、つい最近に誰かが結界を張ったのだと思われます」

 ティアラは全員の顔を見て告げる。

「誰かって誰?」

 ルフィーナがティアラに向けて言うと

「分かりません」

「どうする?」

 リースの言葉に少し考え込む仕草をしたティアラは


「依頼ですので、結界を解除したいと思います」

「そうね」

 リースも同意した。

「その前に、それを何とかしないといけませんね」

 ティアラは石像を指差した。

 リースとルフィーナは一斉に石像に視線を向ける。

「何とかするって?」

 リースはティアラに向き直り聞く。


「それは、『ガーゴイル』と呼ばれる悪魔の一種です」

「な!」

 リースとルフィーナは二人同時に驚いた。

 そして、恐る恐る石像を見る。

 言われていれば確かに今にも動きそうにも感じる。

 しばらく無言で石像を見つめるが、動く気配は無かった。


 一体何者がここにガーゴイルを設置したのか?

 目的は一体何なのか?

 もしかしたらこの遺跡に何か特別な何かがあるのだろうか?

 ティアラはガーゴイルが設置された理由を考えていた。

 ガーゴイルを使役出来る者なんてそうそう居ないと思われる。

 使役出来るという事は、それなりの強さを持った何者かが、この遺跡の中に居るという事になる。


 考えても仕方ない。

 そう思ったティアラは

「テリウス、結界を解除して」

 テリウスに結界解除の支持を出した。

「はい」

 テリウスの声は少し震えているように感じる。

 テリウスは小さな石のようなものを取り出し、入り口の前に四つほど置いた。

 なにやらぶつぶつと呟くと、入り口に薄い膜のような物が現れて、七色に光りだす。


 そして、パーンという音が響いた。

 その直後、ガタっと大きな音が響く。

 石が砕けたような音と共に、柱の上に設置されていた石像が二体共動き出す。

 身体は深い緑色で、真っ赤な目をした生物がティアラ達の目の前にその姿を現す。

 まさに悪魔そのものといった姿。

 翼を広げ、バタバタと飛びあがり、大地に降り立ち、「ガー」と甲高い声を上げる。


「ティアラ、こ、これ強いの?」

 リースは、ガーゴイルから視線を離さずに、後退りしながら聞く。

「それほどではありません」

 ティアラの言葉に、安堵したリースは腰に収めている銃に手を掛けた。

「それなら、私から行くね」

 銃を抜き、ガーゴイルに向ける。

 ガーゴイルの一体も、リースに狙いを定め、双方は戦闘態勢に入る。


 もう一体のガーゴイルは入り口付近に居たテリウス目掛けて、襲い掛かる。

「闇夜を切り裂く、夜の眷属よ……一つになりて敵を貫け!」

 テリウスに襲い掛かろうとするガーゴイルに向けてティアラは左手を伸ばし、呪文を呟く。

「ブレッドバースト!」

 ティアラの左手から、円状の黒い光がガーゴイルに向けて飛ぶ。その弾道に薄い光の残像を残していた。

 黒い円状の魔力の塊がガーゴイルを貫いた。

 ガーゴイルは動きを止めて、そのまま倒れこむ。

 倒れたガーゴイルはみるみる内に色が無くなり、白い岩の塊になった。

「す、凄い……」

 一瞬の出来事に茫然となったルフィーナは一言ボソッと呟いた。


 リースの銃からは放たれる弾丸をかわしながら、徐々にリースとの距離を詰める。

 意外とすばしっこいガーゴイルに対してもリースは落ち着き払っている。

 近距離まで近づいたガーゴイルは右手を上げて鋭い爪がリースに襲い掛かる。

 次の瞬間、ガーゴイルの右手は宙を舞った。

 リースの銃口から氷の刃がガーゴイルの右手を切り裂いた。


 痛みで顔を歪めるガーゴイルは、リースとの距離を取った。

 悪魔でも痛みを感じるのだと感心して、銃口の氷の刃を収める。

 ガーゴイルの鋭い眼光がリースを捉えている。

 ガーゴイルは残った左手を前に出して、リースを指差す。

 その瞬間、リースは左肩に鋭い痛みが感じた。

 顔に血しぶきが掛かるを感じて視線を向けると、肩から血が溢れ出ている。


 いきなりの事で混乱するリースに、

「気を付けてください。ガーゴイルは風の魔法を使えます」

 ティアラが叫ぶと

「そ、そんなの先に言ってよね!」

「あ、ごめんなさい……」

「それにしても魔法とか反則でしょ!」

 リースはガーゴイルを睨みつけながら叫ぶ。

 ガーゴイルは再び、じりじりと間合いを縮める。


「大気に眠りし、我らの友よ。今この時にその力を解放せよ!」

 リースが呪文を唱えると、リースの周囲が赤色の魔法陣に覆われる。

 徐々に光がリースの銃に集まる。

 かなりの魔法だと感じることが出来る。

「不気味な顔して人間様に逆らうんじゃないわよ!」

 光の収束がおこり、リースの銃は赤色に輝いている。

「私にこれを使わせるなんて、大した石像だわ!」

 銃口をガーゴイルに向けて

「スターダスト───ショット──!」

 叫ぶと同時に銃口から何かが放たれた。

 それと同時にガーゴイルの体が貫かれていた。

 一体目と同じようにガーゴイルは石に変わっていった。


 リースはその場にしゃがみ込み、左肩を手で押さえる。

「テリウス、リースさんに手当てを」

 ティアラの声にテリウスは慌てて、リースの元に走りよると、小瓶を取り出す。

 小瓶から粘り気の強い液体を手の平に出して、リースの傷ついた肩に塗り込む。

 リースの悲鳴とも言える声が周囲に響くと、リースの肩から流れ出していた血が止まった。

「無事で何よりです」

 テリウスの言葉に

「う、うん……ありがとう……でも今のが一番きつかったわよ」

「も、申し訳ございません」

 テリウスは恐る恐る頭を下げる。

「お見事でした」

 ティアラはリースの腕を取り、立ち上がらせる。

「ありがとう」

 リースは笑顔で答える。

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