第19話 七伝説の神話

 ティアラ達は遺跡の内部に侵入した。

 まず正面に少し短めの下りの階段がある。

 その奥には円状の広場があった。

 ティアラ達は広場まで足を進めた。

 広場の右隣に見慣れない形をしたオブジェがある。

「これなんだろう?」

 リースが興味深々でオブジェをまじまじと見る。

 ティアラ達もリースに続きオブジェを見る。

 決して触れないように注意しながら。

 こういったものを不用意に触れるのは危険だと、この場にいる皆が直感していた。


「何かの台のようにも思えますが……」

「確かになんか上に乗りそうな感じがするものね」

 そのオブジェは台のように上の部分は窪んでいて、平らになっていた。

 高さは人間の腰ぐらいまでで、下の部分は円柱になっている。

 随分古く、周りに苔が生えていた。

 古い割には欠けることもなく、設置された当初のままの姿をしているのではないかと思われる。

 ただ、上に何かが乗っていたようにも思えるが、そのような物はこの広場には無かった。


 気にはなるが、これ以上調べても何も分からないと判断したティアラ達は先に進むことにした。

 広場の奥には再び少し下る階段があった。

 階段を降りると大きな扉がティアラ達を遮る。

 明らかに人が通る扉の大きさではない。

 もっと大きい何かが通る扉。

 ティアラ達は扉を押してみるがビクともしない。

 引いてみようにも取っ手といった物がない。

 もちろんドアノブもない。

 扉の周囲を調べるが扉を開ける仕掛けなどは見当たらなかった。


「もう!どうすれば開くのよ」

 少し苛立った声でリースが言う。

「テリウス、少し調べて見て」

「はい」

 テリウスは入り口で使用した薄い板のような物を取り出し扉に向けた。


「あ、リースさんあれ!」

 テリウスが扉を調べている間にルフィーナは扉の上の方を指差した。

 リースとティアラ、カルディは指差された方を見た。

 そこには壁画が描かれていた。


 中央に大きな丸い光る物。

 おそらく太陽なのだろうと分かる。

 その太陽に右側に太陽に手を差し伸べている人々。

 先頭に王冠を身に着けた人物がひときわ目立つように描かれている。


 太陽を挟んで左側には人間とは思えないものが描かれている。

 姿形は人間に似ているが、背中に翼を持ち、頭の上には二本の角のような物があった。

 目は鋭く、指の先は長い爪のように描かれている。

 見た目からして悪魔といったところだった。


 その姿を見てリースは先日、ティアラと対峙した悪魔と先ほどのガーゴイルを頭に思い浮かべて直ぐに顔を横に振る。


 太陽の上には雲に乗る人物が描かれている。

 雲の下に剣らしき物が全部で六本描かれていた。


「これは何?」

 リースが見上げながら呟く。

「おそらくですが、七伝説では無いでしょうか?」

 ティアラも同様に見上げながら答える。

「そもそも七伝説って一体どんなお話だっけ?この間、ティアラが少し話してくれたけど、詳細はどうなの?」

 ティアラはリース達を見渡して、七伝説の話をした。

 ティアラの話によると、


 この世界の大陸が、まだ今の形になる前という遥か昔、人類は既に文明と言うものを築き上げていた。

 当時の文明は今よりも進んでいると言われており、天まで届く塔や、天に輝く星々まで行くことが出来る舟もあったという。


 そんな高度な文明を築き上げた人類だったが、ある時より、滅亡への道を歩み始めたという。


 その最たるものが邪神の到来だった。

 邪神はどこからともなく現れて、一人の王に近づいた。

 王に告げる言葉は、魅力的で、王はたちまち邪神の言葉に心を奪われる。


 そして、邪神の言葉に従って王は禁断の武器を使用する。

 神をも滅ぼす禁断の光を世界に向けて放ったのである。

 世界は瞬く間に塵となった。


 かろうじて生き残った人類は、文明の再建を試みるが、世界にある異変が起きた。

 世界中にこの世の物とは思えない異形の物が現れたのだ。

 とても野性的で残忍なその異形を人々は魔物と呼称した。

 魔物は人類に対してあまりにも残虐で絶対的な力を示した。


 そんな地獄とも言える世界に神は人類を救済すべく自ら魔物と邪神に戦いを挑んだ。

 しかし、邪神の力は神を凌ぐほどだった。

 神は敗北し、命からがら天界に帰還する。

 そして恐れを覚えた神は、邪神を封印すべく、一つの大魔法を展開したのである。


 それは絶対領域と言える領域を作り出し、その領域に邪神を誘き寄せるというものだった。

 領域の中では神や神の加護を受けた者は死ぬことも傷つくことさえない。

 まさに絶対の領域。


 邪神をおびき出す為に、神は自ら創造した人類を餌する。

 七名の信頼できる神の側近に人類に協力するように命じ、領域に邪神を誘き出すようにと告げる。

 七名の側近は神の言いつけ通りに人類の元に向かう。


 そして人類と共に、神が作りし、絶対領域の大地『アルカディア』を目指した。

 選ばれし七人の英雄達は決戦の地アルカディアで見事、邪神を打ち破るのだが、魔物たちがこの世界から消えることは無かった。

 魔物は人類を滅亡に追い込んでいく。


 七人の英雄達は人類を助けるために世界中を駆け回るが、領域外での魔物との戦いに勝てることもなく、敗戦続きとなった。

 神は人類を見捨てることを決断し、七人の英雄と七名の側近を天界に帰還させることにする。


 そして人類は滅亡した。

 ただの一人を除いて。

 邪神に心を奪われた一人の王のみが人類最後の一人となった。


 その後、想像がつかないほどの月日が流れ、どこからともなく、再び、人類が誕生した。

 新しい人類は再び文明を築き今日に至ったのである。

 七伝説とはアルカディアで邪神を打ち破った、七人の英雄と七名の神の側近の事を指しているという。


 話を聞いたリースの第一声は

「ちょっと神様酷くない?」

「それ私も思いました」

 ルフィーナがリースに同調する。

「そうですね。こう言っては罰当たりかも知れませんが、本来、神様とはそう言ったものなのではないでしょうか?」

「どういう事?」

「神は基本的には人類を救済することはないという事です」

「え?でも困ったときは神頼みじゃない?」

「そうですが、本来、神は救済ではなく、試練を人類に与えるものではないでしょうか?」


 ティアラの言葉に、明らかにカルディの表情が変わる。

 カルディの所属する『神皇聖騎士団』はとある女神を信仰する騎士団でもあるために、神が人類を救済しないなど、口が裂けても言える言葉では無かったからである。


 そんなカルディの苛立ちも露知らず、ティアラは続ける。

「それと、神が作りし領域『アルカディア』は現在でもこの世界のどこかにあると言われています」

「そうなの?これって神話じゃないの?」

「神話ですが、事実じゃないとも証明されているわけではありませんので」

「そうなんだ。もし本当なら、その領域に行ってみたいね」

「はい。人類の理想郷とも呼ばれているみたいですし」

 ティアラは付け足した。


 ティアラ達が盛り上がっている間に、テリウスは扉の調査を終えていた。

「ここにも結界が張られています」

 この扉にも入り口と同様に結界が張られていた。

 ティアラは周りを見渡してもガーゴイル的なギミックが無いのを確認して、

「テリウス、結界の解除を」

 と告げた。

 テリウスは入り口の結界の解除と同様の手口で扉の結界を解除する。

 ティアラ達は細心の注意を払いながら、扉を押し込むと『ギィギィ』と音と共に扉がゆっくりと開いた。

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