第12話 カルディの正体
「残念だったな」
カルディを出迎えたアシュワードがカルディの肩に手を置いて言った。
「いや、こんなものだよ」
アシュワードに苦笑いを浮かべ答える。
「そうか……」
アシュワードは複雑な気持ちだった。
初めてカルディに出会った時、この男はとんでもない奴かも知れないと感じていたが……実際は万年最下位の生徒だったからだ。
「そう言えば、ルフィーナがもう一度、試験をするそうだぞ」
「え?さっき合格したんじゃないのか?」
「ああ、そうだけど、そのままもう一段階上を目指すらしい」
カルディは周囲を見渡す。
ルフィーナはどこにも居ない。
「今は控室に行っているそうだ」
カルディの行動を見て、アシュワードが説明する。
「そうか……でも一度に二回も試験出来るものなのか?」
本来であれば一度の試験に一回だけだと決まっているのだが、ルフィーナに関しては特別にとの事だった。
学園始まって以来のランク『A』が誕生するかも知れないと言う期待と、もう一つは『ミストルティン』の名前だった。
『ミストルティン』は王国では三大貴族の一つだ。
そのご令嬢であるルフィーナの父が世界魔導管理局に掛け合ったのであろう。
世界魔導管理局にしてみれば、王国に恩を売るチャンスという事で特別に許可したそうだ。
「まぁ、なんだ、彼女は貴族の娘だから……」
アシュワードの言葉に納得したカルディは静かに頷く。
「ランク『A』か……上位魔法の発動で合格だよな?」
カルディが聞くと
「いや、本来ならそれでいいが、今回は対戦相手に対して上位魔法でのダメージらしい」
「何それ?」
「今回は色々特別という事でしょ……」
「そんなの不利なんじゃないの?」
「そうだろうけど、世界魔導管理局が出した条件がそうだったみたいだぞ」
カルディはアシュワードを見ながら
「お前、やけに詳しいな」
「ああ、エマーブル先輩から聞いた」
「エマーブル先輩?」
「ああ、なんでもエマーブル先輩は今回の試験は運営側の手伝いをしているそうだ」
「どうして?」
「なんでも、卒業後は世界魔導管理局に就職するだってさ」
「なるほど!それで」
納得したカルディはもう一つの疑問を聞く。
「で、ルフィーナの対戦相手は?」
アシュワードは少し貯めてから
「どうやら、ギルドの加護者らしい」
「ギルド?」
「ああ、依頼したみたいだ」
「ランクは『A』か?」
「ああ、名前は『リース・バイアランド』という、魔法技師の女加護者だ」
「なるほど……百戦錬磨のギルドの加護者が相手とはルフィーナも大変だな……」
そう言うと同時に、試験官がルフィーナの名前を呼んだ。
「ルフィーナ・ミストルティン」
カルディ達のいる場所の反対側からルフィーナが現れた。
「では、今回は特別ルールとして、ミストルティンさんは上位魔法で相手にダメージを与えてください。上位魔法以外でのダメージはカウントに入れませんでの予めご了承ください」
試験官の説明に黙って頷くルフィーナ。
その眼差しは真剣そのものだった。
「では、リースさんお願いします」
試験官の呼びかけにカルディの後ろから一人の少女が試験会場に入る。
桃色の長い髪を結って赤い瞳はルフィーナを捉えていた。
笑みを浮かべた表情は流石と言っても言いぐらい落ち着いていて、百戦錬磨のギルドの加護者としての風格を表す。
「どう思う?」
アシュワードに聞かれ
「流石だと思う……」
「そうだな……」
明らかに無理だろうと思われる試験だと誰もが感じていた。
そんな中でもルフィーナだけは諦めの表情など一切見せていない。
「リースさん相手にあの方は凄いですね」
突然の声に振り返るカルディとアシュワード。
そこには金色の髪をした少女が立っている。
少女の青い瞳はルフィーナを見ていた。
少女はゆっくりとカルディに視線を向ける。
カルディは少女の瞳をじっと見つめた。
「あなたは?」
少女の質問に
「カルディだ。そう言う君は?」
「ティアラと申します」
丁寧にお辞儀をして、
「カルディさん、少しお話よろしいですか?」
ティアラの言葉に、カルディは少し考える素振りを見せる。
「出来れば二人きりでお話がしたいのですが……」
「ここで話せない内容?」
「よろしいのですか?」
「う……分かった」
カルディはしぶしぶティアラの提案を受け入れる。
そんな二人を不思議そうに眺めているアシュワードにカルディは謝る仕草を取ってティアラと二人で会場の外に出た。
「それで、俺に話って何?」
二人になってカルディが切り出した。
「あなたのそれは封印の腕輪ですよね?」
ティアラはカルディの左腕に付いている腕輪を指して言う。
「……どうして知ってる?」
カルディは警戒レベルを上げる。
「あなたはレイフォードの人間ですね?」
「そうだ」
「では、あなたは『神皇聖騎士団』第7位ですね?」
ティアラはなんの前振りも無しにいきなり核心を突く。
「……どうして分かった?」
カルディも言い訳などせず素直に認めた。
「レイフォードの名前でピンときました。そしてあなたの『存在』も先ほど資料で拝見しましたので」
「なるほど、そういう君は誰だ?『一つ目』か?」
「いえ、私は『一つ目』ではございません」
「では何者だ?」
「私は『シグナルレンジ』です」
ティアラも正体を簡単に明かした。
本来は隠密に行動する二つの組織がお互いの素性を簡単に明かしてしまったのである。
これにはティアラの考えがあった。
「なるほど、もしかして『雷帝』か?それとも『氷帝』か?」
「エリナの情報もある程度掴んでいるのですね。流石です。私は『雷帝』と呼ばれています」
「雷帝……」
ジワリと汗が出るのが分かる。
今ここでやりやって、果たして雷帝に勝てるだろうか……切り札を使えば勝てるかも知れないが……それはカルディにとってもただで済む話ではない。
カルディは極力戦いを避ける方向を選ぶことにした。
「それで……俺に何の用だ?」
「あなたの目的にもよりますが、私はあなたとの戦いは望んでいません」
ティアラの返答はカルディにとっても望ましいものだった。
そして、ティアラは続けて付け加えるように言う。
「目的はどうであれ、協力しませんか?」
思ってもみない言葉に驚くカルディに
「『一つ目』がこの国に入っています。何が目的かは分かりませんが、お互い協力、または情報交換だけでも出来ないでしょうか?」
ティアラは今まで決して交わること無かった『神皇聖騎士団』に協力要請を行った。
それは『一つ目』があまりにも強大で、これからその『一つ目』と一戦交えるかも知れない状況に他のそれも自らの組織と同等の力を持つ組織に構っている余裕など無いからだ。
その為の協力要請だった。
カルディにしてみても、それは願っても居ないことだった。
「条件は?」
「特にありません」
カルディは天を見上げた。
自分の正体は既にバレている。
自分の目的を果たすためには、ここで敵対するよりも彼女に協力するほうが得策だと考えた。
問題は組織の上層部だが、カルディの組織内の地位から言えばさほど問題になることは無いだろう。
こちらからあまり情報を出さないように注意しながら、目的を果たそうと結論づけた。
「分かった。協力しよう」
「ありがとうございます」
そう言ったティアラの表情は年相応の少女の笑みだった。
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