商人(?)
「……ふう」
「おつかれぇ」
いい笑顔でシャツの袖で額を拭った美命の周りには、獣たちが横たわっている。
そんな美命に声を掛けた燕も、漸くスッキリしたようでふらりと立ち上がっていた。
「もう平気?」
「ん、ごめんね」
「ぜんぜーん」
へらりと笑みを浮かべる美命だが、その瞳を細めると燕の後ろへと向ける。
燕も何かに気付き、ばっと後ろを振り向いた。
「いやぁ、お強いですねー」
少し離れた場所で立っていたのは、細い目で微笑むひょろい男だった。
キツネ顔とでも言えばいいのだろうか。
背中には一つのリュックを背負い、美命と燕に拍手を送ってくる。
「……どちらさん?」
「私はしがない旅商人ですよ」
ニコニコとした表情を崩さない男に、燕が探るような視線を向ける。
商人だと言う男は二人に対して警戒するでもなく、容易く近づいてくる。
燕はじり、と後ろへ下がり、美命もそんな燕の側へと寄る。
「ここで出会ったのも何かの縁! ご入り用のものはありますか?」
警戒する二人とは違って、男はニコニコ顔のまま背中のリュックを下ろし、その場に何やら並べていく。
それは草だったり小さな小瓶だったりと、どうやら本当に商売をしている人間らしい。
そしてぺらぺらとその商品の説明をしていく。
「そして! これとこれをセットにして、なんと! 金貨一枚! お得ですよぉ!」
「……○ゃーぱねっt「やめろ。ひっかかったらどうする」さーせん」
イキイキと商品を売りつけてくる男に、美命は強張らせていた肩を落とし、燕がぼそりと呟いた言葉を遮る。
どうやら冒険者には必須の回復アイテム系を売りつけたいらしい。
美命と燕はそんな男から視線を外し、お互い見つめ合う。
「……いや、お金ないんで」
「は? さっきまでバッタバッタと倒してたじゃないですか」
「でも、手持ちのお金はないんです」
「……ふむ」
美命がそう告げると男は何やら考え込むような素振りを見せてきた。
顎に指をかけ、細い目のままどこか空中へと視線を泳がせるような感じがしている。
そして何やら嬉しそうな顔をすると、人差し指を立ててくるりと動かした。
「それでは先程まで貴方方が倒した魔物、それと交換しましょう!」
「……あれと?」
男の言葉に、美命と燕は地面に転がるいくつもの魔物や獣に目を向ける。
「……まあ、ここで交換してもらってもいいかもね」
「ほうか?」
「だってあれ、運ぶの大変じゃん」
そこかしこに散乱する細々した亡骸は、燕の言う通り運ぶのにも一苦労しそうだ。
美命と燕は見つめ合って一つ頷く。
「あれ、アイテムバックは持ってらっしゃらないんですか?」
そこへ不思議そうに首を傾げて問いかけてくる男に、美命が頭を掻くと是と答える。
それを受けて男はまた何やらを考え込み始めた。
その間に燕と美命は散らばるモノを集めて回り、男の前へと積み上げていく。
10、20、30、……増えに増え、小さくない山が出来上がっていく。
それを見て男の頬がひくりと動いたことには、二人は気付かなかった。
「こんなもんかな?」
「後はバラバラになってもてるからなー」
掌をパンパンと払う二人はぐるりと回りを見回して頷く。
そうして地面にしゃがみ込む男を見下ろした。
「ふむ……これはいい。こっちは……ダメ、これは良し。これも良し」
積み上げる一つ一つを検分し、左右に選り分けていく。
二人はそれを見て何を理由としているのかを探っていく。
だが今のところ、真っ二つにしたものでも良いもの、ダメなものとあったり、全体的に綺麗に形を残していても良しとはならなかったりで、良くわからなかった。
「こっちが良品で、こっちは換算出来ないものになります」
男の左右に分けられたものを手で指し示され、その差を見比べてみれば、どうやら今回数は倒したが三分の二はお金にならない状態らしい。
「それで先程はアイテムを、と思ったんですけどね?」
男はここで何やら勿体ぶったような言い方をしてくる。
何だ、と二人が首を傾げていると、男はリュックをごそごそと漁り、中から掌より少し小さいぐらいの黒い宝石を取り出して美命と燕に見せてきた。
「これはここから遠い北の氷山に生息するリャマパカの魔石です。このサイズを手に入れることもさることながら、その山へ行くまでにも困難があり、なかなかお目にかかれない品物ですよ」
そう言って商人は何やらペラペラと話し始めた。
まずはその場所へ行くまでにどれだけ大変か、から始まり、魔石の大きさ、透明感、などなどの説明を入れつついかにこれを今ここで手に入れるのが難しいかまでを身振り手振りを交えながら力説してくれる。
「……で?」
「そんなこの魔石、今ならなんと! ここにあるものならこの買い取り可能なもの全てで交換致しましょう! この魔石を使ってアイテムバックを作る、という使い方も出来ますよ? このレベルの魔石を手にするのは、今しかないですよ!」
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