決定

 二人は画面と神に交互に目を向ける。


『ここで注意を一つ。君たちの身体を弄ったとは言っても元々の素質がある。そこに書かれている魔力にポイントを振った場合、反動があるのだ』

「反動?」

「デメリットということですか?」

『デメリットかどうかは君たち次第だろうな。……それは君たちの年齢だ』

「年齢?」

「年を取る、とか?」

『逆だ。子供へと逆行する』


 二人はまた顔を見合わせた。

 そうして首を傾げる。


「いや、うちもうアラフォーやし。若くなるんなら儲けもんやん?」

「あたしもだよ」

『今君たちが振るそれが初期ステータスとなる。それでは、そこを踏まえてポイントを振りたまえ!』


 神が胸を張ってそう告げた瞬間、二人の指が液晶へと伸びた。


「魔力極振りでしょ」

「いやいや、それも大事やけど体力かって必要やって」

「あたしはいい。魔力一択」

「うちはどっちも振っとくわ」

「あ、これ魔力にMAX振ったら赤ん坊になったりしますか?」

『ふむ……それはなさそうだ』

「じゃあやっぱり極振りで」

「おk。せやったらうちが壁もしたげる」

「よろ」


 二人の指が液晶を連打する。

 ポチポチではない。

 ポポポポポポポポポポポポとポイントが振られていく。


『ああ、そうだ。下での平均的なステータスを見せておこうか』


 そう言って二人の画面の上に、更に液晶が浮かぶ。

 そこには一般人の平均、戦闘職の平均、そして英雄と呼ばれた人間の最高ステータスが数字として書かれていた。


「ん……英雄でMAX50か。一般人で10いかないとか低い……こともないのか。MAX50って考えたら」

「えっと……うちらのMAXは?」

『そこは私の我がままで君たちを喚んだからな、おまけをしておいてあげたぞ!』

マジで? やったね」


 そこで美命が一度指を止めた。

 そうして横の燕の画面を覗き込む。

 燕の指はずっと魔力増加のボタンを押し続けている。


「ね、いくつまで上がった?」

「今90……98,99、あ、MAX」

「ってことはMAX100ってことやな?」

「そうだね」

「おk」


 燕は本当に魔力にしか振らないようで、画面から指を下ろしてテーブルの上に置かれたままのカップを手に取る。

 美命は自分の画面に向き直り再び指を動かす。


「ん、出来た!」

『では、いいかね? 変更はもう出来ないぞ?』

「大丈夫です」

「うちもおk」

『では……ふんっ』


 神が何やら力を込めた瞬間、再び美命と燕の身体が光に包まれた。

 その光が徐々に小さくなり、二人の姿が現れる。

 美命と燕はそっとお互いの姿を見遣り、そしてぱかーっと口を開いた。


「はーっ!? 燕子供になってんでー!」

「うわ、美命若くなってる!」

「え」

「は?」


 お互いの姿に驚いて声を上げ、そうして自分の身体を確認する。

 美命は見える範囲にあった年齢を感じさせる皺が消えたことに驚き、そして喜ぶ。


「わー、若くなってんじゃん! 幾つぐらいかな?」

『そうだな。美命君は20歳ぐらいだろうか』

「おおおおお! ピッチピチやん!」


 対して燕は自分の手を見下ろし、更に体をペタペタと触り、ガクリと肩を落とした。


「めっちゃ子供……つるぺた幼女……」

『そうだな……燕君は7歳程だな』

「小学生……」

「どんまい」


 遠い目をする燕に、美命がその肩をぽんと叩く。

 凹む燕だが、神はそんな燕を見て静かに肩を震わせているだけだ。


『……ふ、それでは君たちの行く末を愉しませてもらおう』

「あ、……あ、待って! 神様あとも一個!」


 話が終わるその前に、と美命が声を上げた。


『ん? 何だね?』

「服ください! 一般的な服!」

『嗚呼、そうだね。希望はあるかね?』

「えっと……ズボンがいいです」

『良かろう』


 神はそれも請け負ってくれて、指をパチリと鳴らした。

 すると美命と燕の体が光り、服装が一瞬で変わる。

 生成り色のシャツに黒っぽいズボン、そして濃い緑色のマント姿になった。

 その変化に燕も落ち込むのを止めて自分の格好を見下ろす。


「これが一般的な服」

「あー、良くある中世っぽい世界なんかな?」

「かもね。まあ、いいや。神様、あたしもこれから育つんですよね?」

『勿論だ』

「……ん、じゃあいいや」

『それではもう良いだろうか?』

「あ、はい!」

「はい」

『それでは君たちの活躍を愉しみにしている』

「はい、ありがとうございました」

「ありがとうございました」


 美命と燕が光に包まれ次第にその姿が消えていく。

 神はそんな二人をじっと見送り、光が消えて残ったカップへと目を移す。


『さて、彼女たちはどんな風に私を愉しませてくれるかな?』

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