軽い二人
宿屋にて食事をし、盥に入れたお湯を使って身体を清めると、二人はベッドへ飛び込み軋ませた。
「はー、お腹いっぱい」
「ほんそれ。美味しかった」
ベッドに大の字で寝転がる燕のぽっこりお腹を見て和む美命だったが、むくりと起き上がった燕が真剣な顔で自分の方を向いたので、上半身を起こしてベッドの縁へと腰を掛けることにする。
「それじゃあ村長さんから聞いた話の元、この先のことを決めます」
「うい」
町──いや、お爺ちゃんが村長だったので、ここは村なのだろう。
村長に無理を言って、交換するものの話や情勢などを、食事をしながら色々と聞かせてもらったのだ。
そうして簡単に知った現在地、情勢などを元に、これからの話をしようと燕が言う。
「まず、情勢はすぐ変わるものだから、村長さんの話が古い可能性もある。でも、面倒な方向に向かう必要はないよね?」
「それな。それに面倒な方へ行くぐらいなら獣人とかに会いたい! モフモフぅ!」
燕が真剣な顔をしているのに、美命の方が真面目な雰囲気が続かない。
期待に胸を弾ませて枕を抱き締めながら足をバタつかせている。
ここで燕が言っているのは、『面倒なことを言ってる人間領に向かう必要はないんじゃね?』ということだ。
この村は端の方のため、情報だけが流れてくるような状態らしい。
その情報とは、都会の方へ行くと詳しくは分からないが不穏だと言うのだ。
どこぞの貴族が行方不明になっただとか、どこかでは戦争の準備をしているらしいとか、そういう話を商人が教えてくれるんだそうだ。
遠いからこの村にまで影響は出ていないが、この先はどうなることやら、と商人が言っていたとか。
「それじゃあ進行方向は森、南西の方角だね」
「はーい! モフモフぅ!」
「ミミズと交換してくれるものは明日には用意してくれるっていうから、それを受け取ってからの出発だね」
「あのミミズ、どれぐらいの価値になるんだろうね?」
「さあ? とりあえずそれなりに揃えられればいいよ」
「魔法もどこまで使えるか、も調べんとね」
「それな。思い出せるだけ思い出して、使えそうなら使ってこう」
「ほやね」
ポンポンと話が進むうちに、燕の瞼が下がってきたのが美命にもわかった。
そういえば燕は中身アラサーだけど見た目7歳なんだっけ、と思い出し、早めに寝ておこうと進言しておく。
燕も否はないのか、頷くとベッドへと潜り込んだ。
「おやすやぁ」
「おやすー」
二人のベッドの間にある小さなサイドボードに乗せられた蝋燭の炎を吹き消して、美命もベッドへと横になる。
美命も疲れていたのだろう、そのまま二人は静かに眠りへと入っていった。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おお、おはようございます。良くお休みになれましたかな?」
「はい」
宿屋で朝食と食後のお茶を終えてから外へ出ると、何人かの住人がそこに集まりいくつもの袋が地面に置かれていた。
そこに居る人達とにこやかに挨拶を交わし、昨日のおじさんと向き合う。
「はようさん。昨日村長から言われたものは用意しておいたぞ」
「ありがとうございます!」
「それじゃあ確認してもらえるか? 後……本当にいいのか?」
おじさんは美命と燕を窺うようにそう声をかけてくる。
結局のところ、ミミズの代金が結構なものになったのだ。
そこをうだうだと言うつもりのない二人は、自分たちの欲しいものさえ交換出来るなら、等価にならなくてもいいと告げていた。
そこをおじさんは心配しているのだ。
「ああ、はい。うちらはある程度揃えばいいので」
「持ち運ぶのも面倒だし、そちらで好きにしてください」
「ありがとうな」
おじさんも周りで聞いていた住人たちもどこかほっとした表情をしていた。
美命と燕がお願いしたものが入っているかどうか、と袋の中身を確認し纏めると二人は荷物を受け取り、ぺこりと頭を下げて挨拶をしてから次の目的地に向かって歩き始めた。
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