中二病

「さて、ここからが本番です」

「うぃっす」


 太陽のおかげでさっぱりと乾いた二人は、しっかりと向き合う。

 そうして美命は腕を組んで告げる燕の言葉に、手を上げて返事をする。

 が、傍から見れば賢そうな幼女に従う成人女性である。

 燕はまだしも、美命はそれでいいのだろうか。


「この先魔物と戦うこともあるんだよね?」

「多分ね」

「そうなると、戦闘方法が必要になってきますね」

「そうです、先生」


 二人の顔が喜色で輝く。


「じゃあまずは、美命も魔力がちゃんと使えるか試してみて」

「りょ!」


 指を揃えて額の当て、ビシィと敬礼をする美命は、ついでその腕を下ろし、目を閉じる。

 んー、と小さく声を上げながら体内の『魔力』というものを探り、循環させてみる。


「うん、これはラノベとかああいうのと一緒なんやな」

「……え、気持ち悪くならないの?」

「あー……なんかもやっとはするけど、燕みたいにはならんな」

「なんでやねん」


 どうやら美命はキラキラタイム発動とまでは至らなかったようだ。

 お互いの差に、若干の理不尽さを感じて燕は遠い目をする。


「あ、あれじゃないん? うちは魔力MAXにしてへんもん」

「ああ、そういう……」


 お互いの違いの理由についての目星はそれぐらいだ、と美命が言えば、燕も納得したようだ。

 一つ溜め息を零し、そして表情を改める。


「それじゃあせっかくなので、魔力を使ったもので戦闘を考えようと思います」

「りょ! うちは魔法プラス前衛でいける」

「あたしは魔法一択。……でも、それだけじゃあ面白くないよね」

「せやなぁ……魔法……魔法……」


 二人で真面目な顔をして、考え込む。

 魔法関連の戦闘手段とやらは、何があるだろうか。


「……なあ、一応、色々挙げるってことでいいんやがの?」

「うん……うん」


 二人して何やら言いにくそうな感じを醸し出し始める。

 そうして二人は目を泳がせるけれど、お互いしっかりと見合って口を開いた。


「「魔法少女」」


 飛び出したのはそんな言葉だった。


「あ、やっぱり?」

「いやー、魔法使う少女で出ちゃった」

「うちも。魔法でどうにか出来るんならいいと思わん?」

「よしやろう」

「やっふー!」


 案の出しあいは終わったようだ。

 燕を主体に、いくつもの『魔法少女』についての話が続く。


「魔法少女といえば変身だよね。何かアイテム……指輪? ピアス? ブローチ?」

「落としにくいものがいいよね? あ、ブレスレットとかネックレスは?」

「んー……よし、ブレスレットにしよう」

「衣装と武器を籠めて、キーワードで変身! うわ、マジで魔法少女出来るやん」

「それな。ちょい待って」


 燕は掌を拡げて魔力を動かしていく。

 小さな掌の上にほわんと光の珠が浮き上がり、ふよふよと浮かんでいる。

 それを確認して、もう一方の手も同じように開いて光の珠を浮かび上がらせた。


「まずは衣装と武器からいこう。どんな衣装がいいかな?」

「んー……あ、燕はお姫様がいいな! ふわっふわな可愛いの!」

「ふわっふわ……ドレス?」

「うん」

「それならレースとフリルたっぷりがいい」

「ええやん! それでいこう」


 美命はしゃがみ込み、そこに文字と簡単な絵を描いていく。

 指でさらさらと砂を抉り、燕は二つの光の珠を浮き上がらせたままそれを見下ろし、二人の意見を擦り合わせていく。


「お揃いは外せん」

「それな。どんなんがいいかな?」

「えー……アクセやな? ピアスとか……」


 ノリ始めた二人の意見は幾つも出て来て、話がポンポンと進んでいく。

 そうして燕の衣装が出来上がると、今度は美命の衣装へと移る。


「うちは……んー……ゴス系でもいいな」

「あー、いいね」

「あ、でもありきたり?」

「んー……あ、あたし和装好きだよ」

「それや! それでいこう!」

「りょ。浮かぶのは袴とか……あ、和ゴス?」

「それやと……」


 地面に描かれる絵や文字が増えて、二人はじりじりと場所を動く。

 書いて、描いて、書いて、幾つもの案を挙げながら二人の『モノ』が決まっていく。

 そうして燕の手には二つのブレスレットが出来上がった。

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