喧嘩(?)
「……何だ、貴様たちは」
簡易休憩所に到着した二人を迎えたのは、そんな言葉だった。
ついでに不審な者を見る目とニヤニヤした目もついてきた。
二人を見て口火を切ったのは二十代前半に見える男だった。
「えっと……」
「ここは遊び場ではないのだぞ? 何故そんな子供を連れてこんなところに居るのだ」
挨拶するべきか、と口を開いた美命の言葉を遮るように発された言葉には多大に刺々しさが含まれていて思わず美命の眉が寄った。
燕は美命の陰に半身を隠し、面倒そうに、しかしそれを見せては何を言われるかわからないと小さな溜め息を飲み込む。
そして二人は状況確認と、味方になってくれそうな人物はいないかの確認にさっと視線を走らせる。
その場には口火を切った明るいオレンジの髪の男の後ろに4人と、その集団から少し離れた所にくすんだ金色の髪に白髪混じりの壮年の男性が立っていた。
こうして見ると、オレンジ頭の男側は、二人を下に見るような目をしているのが良くわかる。
対して壮年の男性は二人を不思議そうに見ているだけで、嫌な目つきではなかった。
「何故黙っている。返事も出来ないのか?」
「オリエンス様の言葉に答えろ!」
オレンジ頭が眉を寄せて二人へと言葉を投げれば後ろに居る男達が追随してくる。
どうやらオレンジ頭は後ろの4人のリーダーらしい。
踏ん反り返るようにして座っていた椅子から立ち上がると、顎を少し上げて二人を見下ろすようにしながら美命と燕に近づいてきた。
オレンジ頭の男の動きと恰好を良く見つめる。
短い髪を逆立てて力強く美命と燕を見下ろす目には嘲りなども見える、しかし狡猾さなどは感じない見た目通りまだ若そうだ。
服は他にも居る男達のそれよりなんとなく良いものを着ているように見えるが、何か武器のようなものは持っていない。
そして呼ばれ方に『様』と付いていたからには、それなりの立場か、いいところのお坊ちゃんなのだろう。
自信満々、というか、多少傲慢さも見える。
「落ち着きなさい、オリエンス君」
オレンジ頭が美命との距離を詰めたその間にさっと身体を割り込ませる存在がいた。
美命よりも10センチは高いだろうオレンジ頭よりも、更に身長が高い。
低音の落ち着いた声で、肩甲骨あたりまでの髪を背中で一つに結んでいる、壮年の男性だった。
「一般の子に威圧的な態度はいけないよ」
美命と比べても大きなその背中ながら、低姿勢な様子でオレンジ頭を宥めようとしている。
後ろ姿しかわからないが、しゃんと伸びた大きな背中やちらりと見える大きな手はごつごつしているようで、この壮年の男性もきっと何か武器を持って戦う人なのだろうと予想がつく。
肩甲骨辺りまでの髪を背中で緩く一つに結んでいて、その髪にはハリもなく艶もなかったので痛んでいるな、なんてどこかズレた思考が美命の頭を過ぎた。
面倒なことになったな、と思う美命の斜め下で燕が目をキラキラと輝かせていることに誰も気付かないまま、オレンジ頭は壮年の男性に向かって何やら言い募っている。
「貴方はいつもそうだ! へらへらとして覇気のない。もっとしっかりしていただきたいものだ!」
「いやでもね、オリエンス君……」
「なにが英雄だ! 俺は、俺は……っ」
宥めようとする壮年の男性に向かってどれだけか言いたいことを言ったオレンジ頭は、ぐにゃりと顔を歪め、そうして舌打ちをして踵を返すと、男達を引き連れてどこぞへと去って行った。
どうしたものか、と美命と燕は視線を交わすが何とも言えず、そこには静かな空気が訪れる。
「……変な所を見せてしまったね」
「あ、いえ……」
くるりと振り向いた壮年の男性は眉尻を下げて苦笑いを浮かべていた。
白髪交じりのくすんだ金髪を後ろへと撫でつけた目尻に皺をたたえる壮年の男性は、こうして見ると五十代あたりに見える。
オレンジ頭が投げつけていた『英雄』という単語をこの男性に当てはめるには、畏怖だとか屈強という言葉が足りない気はした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます