魔法少女は破壊神!?~平和へ導けない世直し旅~

冬生 羚那

プロローグ的な

二人ぼっち

「さーて、どうしたものか」

「そうやねぇ」


 右を見ても真っ白い空間。

 左を見ても真っ白い空間。

 上を見ても(以下同文)。

 下を(以下同文)。


 何かの電灯があるわけでも、太陽があるわけでもないのに、明るくてだだっ広い真っ白な空間にぽつんと二人の人間が立っていた。

 それぞれがここがどういう場所か、これからをどうすべきかを考えているのだが……如何せん、情報が何も無く解決する為の手段も何も見つけられない状態に陥っている。

 此処に存在している生き物が、この人間二人しか見当たらない、そんな不可思議な状況は未だかつて無い出来事ではある。

 悩む直前までは、思いがけぬ再会に手を取り合って喜んでいたのだが……。


 一人は明るい茶色の長い髪を一つの三つ編みにして、胸の方へと流している女性だ。

 その目尻や容貌を見れば、それなりの年齢を重ねた女性であることがわかる。

 服装はラフな、といえば聞こえはいいが、首周りや裾が伸びかけたグレーのスウェットを着ている。

 足下はモコモコの靴下で、如何にも寛いでいました、と言わんばかりだ。


 もう一人は肩を超える程の黒髪を耳にかけただけの女性だ。

 此方はもう一人より若く見える。

 服装は青いパジャマ姿であった。


 それもそうだろう。

 二人は『それぞれの自宅』で寛ぎながら電話をしていたのだ。

 それは遠く離れた、此処に居る人間同士での語らいのひと時中だった。


 この二人は至って普通のOLである。

 いや、『至って普通』は少し語弊があるかもしれない。

 彼女達は『隠れヲタク』というスキルを持っているのだ。

 ……取り繕ってみたが、ただのヲタクである。


 仕事中は一般人に擬態し、波風立てず穏便に毎日を過ごす……そんなどこにでも居る『至って普通の隠れヲタク』だ。

 そうして世の中に埋もれて来た彼女達の付き合いは、かれこれ片手の年数を超える程になっていた。


 出会いはとある最大手主催の同人イベントだった。

 紆余曲折あり、お互いの住む地域は遠くとも、年齢に差があろうとも、お互いが気の置けない間柄になっていたのだ。

 ちょくちょく連絡を取り合ってお互いの萌えを語り合う、そう、今日も彼女達は語り合っていたのだが……。


「なぁなぁ、これアレっぽい気がせんでもない」

「どれ?」

「ラノベで良くある異世界ファンタジーのやつ」

「……ああ、そういう」


 茶髪の女性がそう言うと、黒髪の女性も思い当たったのか静かに納得した。

 だがそこでまた二人は首を傾げることになる。


「いやいや、現実と非現実を混同するなし」

「そうは言ってもなぁ……」


 黒髪の女性が顔の前で手を振って苦笑いで『現実』を否定する。

 片や茶髪の女性は空間をぐるりと見回して、肩を竦めた。


「生きてたら一回ぐらいはこういう事もあるかもしれんやん」

「いやいや……いやいや」


 何処か楽しそうな雰囲気を醸し出す茶髪の女性に、黒髪の女性は首を左右に振る。


「人生って不思議やなぁ」

「それで片づけたらダメじゃね?」

「でもなぁ……うちらが何かして、この状況変えられるか?」


 茶髪の女性のその言葉に、黒髪の女性は顎に指を当てて考え込んだ。


「……無理だね!」

「そやろ?」


 ここで漸く黒髪の女性も、『現実』を受け入れることにしたようだ。

 一つ深い溜め息を零して、込み上げる何かを吐き出す。


「……それじゃあここからどうしようか」

「んー……どうしような!」

「ちょっと、こういう時の解決方法とか知らないの?」

「しらーん。だってうちもハジメテの経験やし。うわ、もうすぐ四十路なのに! アラフォーなのにハジメテとか凄くない?」

「そこでテンション上げる意味はわかんない」


 茶髪の女性は楽しそうとはいえその場から動くのは怖いのか、その場で顔だけをキョロキョロと忙しなく動かしている。

 その目は期待にキラキラと輝いていて、効果音をつけるとしたら『ワクワク』だろうか。


「そやかって、こんな経験二次元でもなかなか出来んて」

「まあね。ただ、こんな所にほっとかれても困る」

「それはそうやな」


 どの方角を見ても真っ白い空間しかない場所で、二人はそっと思った。


『こんな所に一人じゃなくて良かった』と──。

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