四月 - 放課後の旋律1
そう、ここら辺りで波瀾の一日は終わるはずだった。と、良太は思う。
ところが良太は今、全力で学校へ戻る道を走っていた。
咲と一緒にファーストフード店へ行き、篤志と合流すると、篤志と咲の注文した商品だけがテーブルに並んでいた。良太はがっくりと
「俺の分も頼んでおいてくれよ……」
「だってりょーちん、何食べたいか言わなかったし?」
「言える状況じゃなかったろ!」
「あっつんサンキュ。はい、お金」
「ほい」
咲はさっそくポテトを口に運ぶ。良太は抗議の意味を込めて篤志のコーラを横から取ってひと口飲み、ズボンの後ろポケットに手をつっこんだ。
「俺もなんか買ってくるわ……、あれ?」
「ん?」
篤志が目をやると、良太はせわしなくズボンのあちこちのポケットや胸ポケットを触っている。ついには急に真顔になって鞄を開き、ごそごそと中を確認し始めた。
「え、ちょっとりょーちん、まさか」
「どしたの?」
篤志と咲がそれぞれに疑問の声を上げ、
「財布がない……」
良太が呆然と答えると同時に、キュル、と空腹を訴える音が鳴る。鞄やポケットの中身をすべて取り出してみたが、やはり財布は見つからなかった。
「りょーちん、とりあえず座ってなよ。なんか買ってくるからさ」
篤志が立ち上がるが、良太はそれを制した。
「いや、俺、財布探しに行くわ」
「つっても腹鳴ってんじゃん。ハンバーガー食うのに十五分もかかんないしょ。あとから俺らも一緒に探すさ。な、咲」
「そ、そだよ! もしかしたら私が自転車ぶつけたときに落としたのかもだし」
咲も慌てて言い募る。自分のせいではないかと思って内心焦っているのだろう、心でクスリと笑いながら、良太は二人を見て言った。
「んじゃさ、悪ィんだけど。食べ終わったらでいいから、通り道に落ちてないか適当確認しながら、学校まで来てくれないか?」
「学校?」
「おー。ちょいと心あたりあるっつーか……多分、教室だ。生徒手帳もらったろ。あんときに落としたんだと思う。俺普段、どっちもケツポケットに入れてんだよ」
「ああ」
「……椅子に座るときゴワゴワしないの?」
言いながら想像したのか、咲は居心地悪そうにモゾモゾと座り直した。
確かに普段なら、着席したときの感覚で気付いたかもしれない。だがあのとき、良太は仁野を直視して硬直したところを小山にからかわれ、少なからず動揺していた。その上、あのドラマチックな自己紹介。今日に限っては、それどころではなかった。
「わかった、じゃあ俺と咲で帰り道沿い探すよ。もし見つかったら連絡する。学校ついたら、正門で待ってればいいかい」
「おう、サンキュ。こっちもなんかあったら連絡するよ」
* * *
そうして息を切らして戻ってきた学校は、すでに閑散としていた。新学期初日ということもあり、一部の部活の生徒を除いてほとんどが既に帰宅しているようだ。静まり返った校舎に入り、教室へ向かう。良太の予想通りであれば、座席の後ろ辺りにぽろっと落ちているはずだった。
「見つかってくれよー……」
祈るような気持ちで階段を昇り、廊下を通り、二組の前まで来て――良太は立ち竦む。
歌声が聴こえた。
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