心が洗われるようなファンタジー

幻想的で美しくて、ちょっと切ない一人と一匹の旅路を記した物語です。

魔法使いの青年アルルは、言葉を話す黒猫と出会う。
アルルはなぜか倒れていたようで、服には血もついているが、何が起こったか覚えていない。
眼前の猫はひたすら自分に名前をつけるように要求する。
名前をつけた後ならば、何が起こったか教えてくれると言うので、アルルは名前を考え出す……。
そんなところから始まる、青年アルルと名付けられた猫ヨゾラの旅の物語です。

この物語の醍醐味は、なんと言っても情景の美しさ。
アルルとヨゾラの旅する先は、輝かしい風景でいっぱい。
そんな情景が、事細かに説明されるのではなく、読んでいるうちに読み手の頭の中に自然と浮かんでくるのです。
人々の生き生きした会話も情景のひとつ。
メインキャラクターから名前のないキャラクターまで、生命力溢れる人々が魅力的です。
また、魔法や「見える人にしか見えない不思議なモノ」の描写も独創的でファンタジック。
ヨゾラはいったい何者なのか? をはじめとする、ちりばめられた謎も、物語を飾る神秘の一つです。

お祭りの夜に、この世界とくっついている「向こうの世界」に紛れ込んでしまうような、浮遊感を楽しめる物語です。
他では決して見られない、綺麗な世界観にうっとりと酔いしれてください。

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