武侠系中華ファンタジー、描かれるのは「人」の姿

 圧倒的な知識と綿密さに裏打ちされる武侠系中華ファンタジー。
 このタイプの物語を見るのは初めてのことでしたが、とても楽しく読み進められました。
 固有名詞や世界観の難解さから読む人を選んでしまうのかもしれませんが、しかし描かれている「人」の姿にこそ、この物語の本質が隠れている気がします。
 父に捨てられた子が、人ならざるモノとして生まれ変わり、純粋に、強さを求め生きることを決意する。その傍らで成長を見守る剣客。
 登場人物の行動、動機が善よりも欲、というパターンが多くて「人間らしい」ですね。特にルンガオには、武に通ずる者かくもあらん、と強く思わされました。
 その中で「本物の家族ごっこをさせてくれ」という言葉は、善が全面に押し出されている数少ない言葉の一つではないかと思います。
 コージャンの持つ温かさと、それを率直に表現できない人生を歩んできたという事実が凝縮されている。これしかないなと思うくらい痛烈なキャッチフレーズだと思います。

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