美術館における架空の企画展、その展示作品の解説文、という体裁の物語。
この構成、というか手法自体にもうパワーがあります。なるほどこの手が、という以前に、仮に思いついたところでまずひとつの物語として成立させるのが難しい作品。
作品世界の中に実在する、なんらかの文章を通じて著される物語。例えば手紙や日記の類はよく見るのですけれど、でも美術品の解説文というのは珍しいです。たぶん初めて見ました。これだけでもうわくわくするというか、ほとんど勝ったようなものだと思います。
加えて、展示作品が『美術品としてのメガネ』というのが面白いところです。『美術メガネ』『メガネ作家』という語が普通に存在する不思議な世界観。展示される奇抜なメガネの数々と、その作者であるひとりの男の人生。その骨太なドラマに解説文を通してクローズアップしていく構成。
この、『リアリティ』と『創作らしい空想』がほどよく混ざり合う感覚。前者に寄せれば小説的な面白みが薄まり、後者を優先させすぎればただの混沌と化す。その中間、ちょうどいいところをしっかり押さえてくれる、絶妙なバランスが楽しい作品でした。