〇〇さん家の食卓
男の子のお父さんは何を話してくれたのか、ここで夕食を頂いて、後に白川さんが迎えに来てくれるということになった。パパとママとどんな関係なのかは特に話さなかった。私が聞いたら、教えてくれそうだったけど、そのときはそこまで気が回らなかった。
目の前にいる、オバサンのせいだ。
「お嬢さん、名前は? 可愛いわぁ、ねぇ、ケーイチさん、もうこの子うちで育てていい?」
私達は食卓で待つように言われ、座っていたが、向かい側に座るオバサンがずっとこちらを見てくるので、私は下を向いていた。オバサンはキラキラというよりギラギラした目で私を見ながら聞いたあとに、料理中のケーイチおじさんに尋ねる。
「ア、アリス……、みこしば、アリス……」
私はかろうじて出せそうな言葉を絞り出して自己紹介した。オバサンはこちらを振り返ってさらに目をギラギラさせる。
「アリスちゃん! あたしは香織、っていうの、香織ちゃんって呼んで、ね?」
「カオリおばさん」
棒読みでそう言った気がする。その後、オバサンは、か……、と声にならない声を出して数秒ほどフリーズしていたと思う。
「ア、アリスちゃーん? どうしてそんなに目が死んでるのかな〜、はは」
「きらいです」
どうしよう! ママ嫌われちゃったわ! と、男の子に泣きつくオバサン。とても忙しくて、表情が豊かな人だ。だけど、ちょっぴり苦手かもしれない。
だいじょうぶ、おかあさんはいつもこうだけど、やさしいから! と男の子がオバサンを庇ったり、私がオバサンと目を合わせないようにしていたりすると、ケーイチおじさんがお盆にたくさんの料理を載せてやってきた。まだありますよー、と何往復かして、気がつけば食卓にはご飯とお味噌汁、焼き魚に、煮物が。素朴だけど、見た目も香りも繊細で、とっても美味しそうだった。
「今日は後でデザートもありますからね、では」
「「いただきます」」
みんなが手を合わせるのに倣って、私も手を合わせる。思い思いに食べていくのを見ていると、ケーイチおじさんに召し上がれ、と声をかけられる。
箸を持って、ご飯を一口。美味しい。続いて、お味噌汁をすする。美味しい。焼き魚にも手を付ける。美味しい。そして煮物もぱくっと。美味しい。なにか特別に手間をかけたのだろうか、そう思うくらいどれも美味しかった。
「どうだい? お気に召したかな?」
「どれもおいしいわ、おじさん、私のうちのしぇふになって」
そう言うと、オバサンがドッと笑う。あまりにも大笑いされたので、少しビクッとしたが、おじさんの方も少し笑顔になっていた。
「シェフだって、本当にお嬢様みたいなことを言うのね。 ケーイチさん、雇われてきたら?」
「そうだね、それもいいかもしれない。 それじゃあ香織さん、僕の代わりに家事よろしく」
あーん! パパまでいじめてくるぅ! と男の子に泣きつく。
「しょくじちゅうだよ、おかあさん」
そう言って、黙々とご飯を食べる男の子。よかった、この子はオバサンじゃなくて、おじさん似だ。
だけど、そうしたやり取りを見ていて、気がつけば私も笑顔になっていた。
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