それともウチュウジン?

 夜は、星が綺麗だった。街灯はほとんどなくて、雲もかかっていなかった。急に暗くなった空は、私に近づいてきた気がして、今ならそのキラキラに手が届きそうだった。


 もうつくよ、おねーちゃん。


 私の手を引いて、その子の家まで案内してくれている途中だった。その手が私を地球に留めてくれていた。



◆ ◆ ◆



「ただいま!」


 男の子は元気にそう言って、靴を脱ごうとする。私はその様子をじっと見ていた。


「あら、随分遅かったじゃない、ってその子誰よ」


 男の子のお母さんらしき人が出てくる。目つきの悪い顔で私をまじまじと見る。私はちょっと怖くなって目を逸らす。


「おともだち、さっきそこであったんだ」


「なに、ここらじゃ見ない子ね、妖精さんかしら? それともウチュウジン?」


 お母さんらしき人は、ヨクワカラナイ質問をしてくるので、私は返答に困った。緊張してだんまりを決め込む。


「おうちにかえるのがイヤで、くらくなるまでそとにいるって」


 いってたんだ。と、私の代わりに説明してくれる。


「ナイス我が息子。こんなにかわいい子、外にいたら連れ去られちゃうわ!」


 やっぱりお母さんだ。お人形さんみたいね〜! と、男の子と全く同じ反応をしてみせた。私の髪を触り、頬を触り、耳を触るところで後退り。内にいても連れ去られそうだ。


「こらこら、香織さん、その子困っているじゃないですか」


 玄関で騒いでいるのを聞いてか、奥から優しそうな男の人が出てきた。男の子のお父さんだろう。

 料理中だったのか、エプロン姿で布巾で手を拭きながら現れた。私のお父さん、お母さんのイメージがそっくりそのまま逆になったような感じがした。

 男の子のお父さんは、私に近づいて、まずは目線の高さを合わせてくれた。


「お嬢さん、うちの子と遊んでくれてありがとう。 でも、今日はもう遅いです。 お父さんもお母さんも、心配していることでしょう」


 とても優しい声色で、話してくれる。幼いときの私は、それだけでこの人が好きになった。憧れる方の好意だ。白川さんも優しい人だけど、この人の雰囲気がとても家庭的な優しさがある。


「私、ここにはヒショできてて、だけど、今日、帰らないといけないの。 それが嫌で、それで、ベッソウを抜け出してきたの」


 避暑、別荘、と、ここに来るまでに覚えてきた単語でなんとか説明する。この人は信頼できる、そう思ったのかもしれない、一生懸命に説明する。


「別荘、というと、あの小高いところにある大きなお屋敷かな?」


 ぴたりと当ててくれた。


「香織さん、電話帳、持ってきてくれますか」


 ケーイチさん色仕掛けしおって! あたしのときは話しかけてくれなかったのにぃ! と文句を垂らしながらその子のお母さんは電話帳を持ってくる。


 ケーイチさんは受け取った電話帳を開いて、あったあったとつぶやく。そしてまた私に目線の高さを合わせて、


「いまからお嬢さんのお家に電話します。 うちでご飯を食べていくってね。 大丈夫、怒られたりしませんよ。 お嬢さんのお父さんとは、ちょっとした縁がありますからね。 さぁどうぞ、上がってください」


 そう言って、電話をするために奥へと消える。おじゃまします、と小さくつぶやいて、私は男の子に倣うように玄関を上がる。焼き魚の良い香りが、ぷん、と私の鼻をつついた。

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