消えそうなくらい、小さな

 街中、といっても人も車もそこまで多くない。歩きながら通話をしていても、特に迷惑にはならない。歩道もかなり広くて、少し寂しい感じがする。朝とか夕方は混んでるのだけど。

 かといって、街灯が少なかったり、建物の灯りがなかったりするわけでもない。きっと、残業をしている人も多いのだろう。遅くまでご苦労様です的な気持ちを込めつつ、灯りがある方をチラチラと見ながら歩く。

 

「ミコちゃん、その会わせたい人って、男の子?」


「そ、そうだけど、それがどうかしたの」


 今のは明らかに動揺を隠しきれてない声だった。なんだかんだ偉そうなこと言ってるけど、こういうのには弱い、自覚してる。なんたって今まで異性と接点を持とうなんて思ってなかった。私の周りにはいつも仲のいい女の子がいて、それで完結してたわけで、それで十分だったから。


「あらあら、まぁまぁ、へぇ」


 街中だし、騒ぐわけにもいかないので、シノちゃんをニヤニヤさせたままにしておく。電話越しだけど、確実にニヤニヤしてる。それに、怒ったらシノちゃんの思う壺。あくまで気丈に、過剰な反応はしちゃだめって習った。


「そうそう、シノちゃんの思っている通り。 でも、なんか空かされちゃったというか……」


 なんか結局はぐらかされてる気がするのよね。


「それは、ミコちゃんがあまりにも唐突だったからじゃない?」


「うっ、確かにそうだったかも……」


 それは、自覚症状ありだけど、だって、しょうがないじゃない。接近方法がわからなかったんだから。

 あの時の子だって、一目見てわかって、まぁ最初は驚いたし、覚えていた自分自身にも驚いたんだけど、どうしたら接触できるか一週間程考えた末の計画だったんだから。でも私の体質を利用しようと思いついたのは、ちょっと罰当たりな気がしたけど。


「でもね、彼のことはシノちゃんも知ってると思うの。 ええと、あの時の、そう、昔シノちゃん家と一緒に旅行した時の」

 

 たぶん私は五歳にならないくらいで、シノちゃんもそれくらいだったと思う。どこへ行ったのかまでは覚えてない、でも、日差しが強くて、暑いところだった。そして、私はあの男の子、ホタルに会っている。


「うーん、行ったのは覚えてるけど、男の子……? 覚えてないかなぁ。 そこで男の子に会っていたとしても、流石に容姿が変わってるんじゃない?」


 そう言われればそうだけど、私には確信があった。あの時の子がホタルだってこと。消えそうなくらい、小さな記憶が私にそう告げるのだ。

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