でないとこの世は生きづらい
「では」
月曜日。放課後。恋人という関係が有耶無耶になった後、協力関係となった先輩と俺は、またしても音楽室に集合していた。議題はもちろん、先輩の体質について。先輩は運や確率が絡むとなんでも当ててしまう、らしいのだ。
「まず第一に、先輩のソレを知っている人は俺以外にいたりするんですか」
これ重要。ここに来る前から色々と考えていたのだが、先輩のソレは使い方によっては相当凄いことができるだろうと思った。まず思いつくのが宝くじ等の、賭事関係だ。先輩の秘密を知れば悪用されかねない。俺もちょっと買ってみて欲しいと思う。
「えーとね、このことに気がついたときは口にしてたのだけれど、大体の人が信じてくれなかったわ。 それ以来話してないけど、一人だけ信じてくれた子がいるわ。 まぁ、でも心配しないで、信用できる子よ。今度紹介したげるね」
なら安心、だろうか。
「で、どうしたらいいと思う?」
先輩が机に頬杖をつきながら聞いてくる。右手でクッキーを弄んでいる。ティータイムの真っ只中である。この人にはティーカップと紅茶がよく似合う。
「そうですね、単純な話ですが、それについて知っている人を探す、というのが手っ取り早いのかもしれないです。 先輩のようなこと、あるいは現実には起こり得ないだろうことを体験してる人がいれば」
ふむ、と杖がもう一本増える。無意識にドギマギしてしまうポーズを取ってくれるな、この人は。んーーー、と唸ってから先輩はこう言った。
「そうねぇ、でもそんな人、会ったことないわ。 どうやって見つけたらいいかもわからないし」
確かに、こんな奇怪な話がそこら辺に転がっているわけではないだろう。そんな状況であったなら、俺は今頃高校生活を投げ出しているに違いない。魔法使いは外を歩けないのだ。極稀にそういった人がいても、ソレを隠して生きている。でないとこの世は生きづらい。
「まぁ、一旦保留かしら。 そんなことよりも、これ」
そんなこと!? あれ、この人はソレに悩んでて、ここまでしたんじゃなかったのか? どういうことなんだ、この人の意図が全くわからないぞ……。
「私達、恋人同士じゃない? こういうことしたかったのよねー、ほら」
この人はいつもやることが唐突すぎる。俺のほうが先輩のこと考えてたんじゃないかってくらい、切り替えが早い。そして、取り出したのは一冊のノートだ。これはもしや……。
「まさか、交換ノートとか言わないですよね、まさかね。 だとしたらツッコミの需要過多で過労死しますよ俺が。 ははは」
わざとらしく笑ってみても、どう見てもそのノートに書いてある可愛らしい文字(ちゃんとデコってある)は俺の予想を裏切ることはなかった。
「いや、交換ノートだけど? なんで過労死するのよ」
とりあえず地の文でツッコんでおこう。
まず、俺達は恋人同士(?)である。そして交換ノートは中学生の女子がやることである。高校生の男女がやれば、瞬く間に黒歴史である。国際紛争並の出来事になるだろう。とにかくやめてくれ、頼むからやめよう。丁重にお断りしようとすると、
「えーっ」
から始まって、相当に駄々をこねられた。なんてワガママなんだ! でも、逆らえない何かがある……。
こうして俺は先輩と交換ノートをするようになった。先輩曰く、先週から既に書いていたらしいので、今週は俺が当番らしい。毎週月曜日に交換しようという話だった。まぁ、普通に日記をつけると思ってやればいいかな。ただ、うちの妹と飲んべぇの母上には絶対に見つかってはならない。絶対にだ。でなきゃ俺の名誉が危ういだろう。
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