第13話 空虚な日々/変わる日常 12
「……なんでしょう、あれ」
怪訝な表情で指差したその先。
「星じゃねぇのか?」
「いえ、違います。よく見ててください」
目を凝らして指差す空を見上げると、闇の中に一際強く輝く二つの閃光。星のよう、とも形容出来るが二つのそれは星とは一線を画す、異質な輝きを放っていた。
浮世離れした光はその輝きを強くしては弱くして、まるで呼吸しているかのように今日強弱させる。
明らかにこの世のものではない。
古月は言葉を失い、絶句した。
二つの光はしばらく互いを見つめあうかのように停滞していた。
――数秒後、その二つの光は高速移動を始めた。
例えるならパソコンのマウスでカーソルを動かすかのような自由度。飛行機でも鳥でも描けない、異常な動きを光の尾を引いて互いにぶつかりあう。二つの光は互いにぶつかっては磁石のように反発し、またぶつかってはお互いを弾く。
片方の光がもう片方の光から離れると、片側が離れた光を追いかけ、またぶつかり合う。そんなことを延々と繰り返していた。
「流れ星……じゃないなあれは」
「流れ星はあんな変な動きはしませんよ」
そんなことは誰の目にも明らかだった。しかし、口にして確認をとらないといけないほど、それは現実離れした光景だった。
二人は呆気にとられ、ただ立ち尽くして光の動きを目で追っていた。
やがてしばらく。二つのうち一つの輝きがだんだんと弱々しくなっていた。足が棒になるほどの時間が流れていたが、それを忘れてしまうぐらい、二人は光に惹きつけられていた。
二人の光は最初はお互いが同じように反発していたが、次第に一方が弾かれる距離が大きくなっていった。だというのに、弾いた側はほとんど微動だにしていない。
戦っているのか?
光たちの様子に、そんな疑問が浮かんできたときだった。押されていた光がもう一つの光によって地に向けて失墜させられた。最後に堕とされた光は眩い輝きを放ち、死んだ蛍のように消えていく。
落下点は最後に光った場所から簡単に予測できた。
が、行ってみるべきなのだろうか。いや、行くべきだろう。正体不明の飛行物の実態は知っておくべきだろう。
が、行けばただでは済まない気がしたのだ。自分だけならまだしも、隣には小春がいた。自分が怪我をするならまだしも、小春に万が一の事があれば、それは自らの身が引き裂かれるより辛いことだった。
古月心は決まった。すぐさま自転車を進行方向から背を向け、今見たことはなかったことにしてその場から去ろうとした。
しかしそれは叶わず、服の袖をつまんだ小春に阻まれた。
「行ってみましょう」
「……マジか」
「今、周囲に誰もいません。もしかして、あれがなにか危険なものだったら警察に通報出来るのは私たちだけです。他に誰か見ていたとしても、それが今動かない理由にはなりません」
無謀というべきか、正義感が強いというべきか。
呆れたが、同時に感心もした。自分が小春の立場ならば、同じことが言えただろうか。きっと言えなかっただろう。
小春の言葉で改めて進行方向を変えた古月は星が落ちた方向に向けて後ろに小春を乗せて全力で自転車を走らせた。
手がかりはないので、辺りを探し回る羽目になった。
目測するに、あの光の主はそれなりの大きさを持っていると推測される。なんせ、遠く離れた距離からでも閃光弾のような輝きを常に放っていたのだから。常識を踏まえて考えると、それなりの大きさがないとおかしい。
アスファルトで舗装された道路を走り、それらしき物を探すも簡単には見つからない。微弱な光でも発していればわかるのだが、と正体不明の相手に意味不明な期待をする。
「見つかりませんね」
「探すなって神様が言ってるのかもな」
「神様なんて信じてないくせに」
「腹が痛くなった時とかは一番の頼りにしてるよ」
軽口を叩くように言ったが、飛行物が落ちた場所など、それこそ神のみぞ知るところである。たとえ墜落したモノがそれなりの大きさを持っていたとして、この暗さと街の広さでは、まさに二階から目薬を差すようなものである。容易に見つかるはずもない。
探索を始めて五分は経過した。この辺りに落ちた、と推測したはずだが、探せど探せど見つからなかった。街は広いが、推測した場所はそう広くない。五分といえど、自転車で狭い地域を網羅するには十分すぎる時間だった。
「見つからないな……。もっと遠くを探してみるか」
古月は範囲を広げて探そうと小春に呼びかけ、額の汗をぬぐった。
「あそこに行ってみましょう。あの公園」
公園とは、一ヶ月まえに小春が部活を作ることを持ちかけた、あの公園である。そう都合よく見つかるとは思えないが、手がかりのない今、探さないよりかは断然マシだった。
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