なんて複雑怪奇で美しい物語なんだろう!

たまにジャンル分けの意味が不必要な作品がある。
この作者だからこそ書ける、この作者にしか到達しえない、そんな物語のことだ。

紹介文にもあるようにこれはホラーである。
人の心に潜む悪意、邪推、後悔、そんな後ろ暗い感情をあらわに見せてくる。

同時にこれはファンタジーでもある。
しゃべるかわいいぬいぐるみは登場するし、物語のキーになるのは一遍の童話『宵待ち姫』である。

さらにミステリーでもある。
物語は数年前に亡くなった一人の少女の死を中心にして、その謎を解き明かすことで進んでゆく。

そして何より人間を描いたドラマである。
悲しいこともあれば、目を背けたい傷もあり、それでも再生してゆこうとする魂のしなやかさがある。

こう書いてくると、いかにも暗そうな作品に思われるかもしれない。
が。この物語、とにかく楽しいシーンがいっぱいなのである!

それはキャラクターの魅力によるものだが、語り口がまた軽やかで楽しい。
辛いシーンであっても、なにか明るい希望をもって読み進められるのである。

これはもう作者の持つ世界観、それを再現する文章の魅力に他ならない。
そして希望をもって読み続けた先に広がる美しい光景。
すべてを包み込む感動的で完璧なエンディング。

こんな作品が存在し、カクヨムという場で読めるというのは本当に素晴らしいことだと思う。

オリジナリティーあふれる、ここにしかない幻想的な物語。
ぜひ読んでみてください。

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