昏く、美しく、狂おしき噺

この作品は、基本的には短い噺が集められたような体裁を取っている。それが恐らくは読者をして手に取らしめ易い要素になっているのであろう。言わばつまみ読みが可能なのである。
かく言う私も、初めはちょっと覗いてみるかといった具合でしかなかった。

ところがどうだ。
生魎なるもの、そして引き起こされる怪異の恐ろしさたるや。
単なる怪談、妖怪噺の類ではなく、それを行うのは生身の人。人の業の為せる歪みは、それを埋めよ埋めよと呻き鳴くが如く、人を求める。

怪異ではなく、これは人の狂気。そう私は貪るように幾つかの噺を手に取り、感じた。

そしてそれは漆黒に塗り潰されたものではなく、いつも昏く、ときに玻璃のように濁り透け、玉蟲のように様々な色を帯びる。

流れる血さえも柘榴の珠の如く美しい。
読むうち、本来、人が恐れ、忌避すべきはずのものに、腕を伸ばし指を入れ手繰り寄せたいような衝動に駆られるのだ。

どこまでも美しき言葉でもって、縦横に織られる物語。華美な修辞は単なる装飾ではなく、ときに波濤のように、ときに白露のように律動を産む。それは物語自体の脈動となり、いつしか読み手は己の中に何物かの胎動を感じるに至る。

それがどのような文様を描くものか、この先も双つの眸に焼いて付けたいと思う。

——もしかすると、これは、どうやら、私も生魎に魅せられたか。

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