第14話 ねこのおやつで

 いつもの刑事の背後に、見知らぬ捜査官たちが廊下に群れをなしていた。

「捜査令状です」

「なんの容疑なんですか?」

「違法な薬物の所持、使用の容疑です」

「そんなもの、ありませんよ!」

 ドドッと、捜査官たちが狭いマンションに入り込んできた。

 そして全員が恐らく唖然としていただろう。

「これ、ぜんぶ?」

「ええ。あれからも、届き続けるんです」

「それで、寄付をはじめた?」

「寝る場所ぐらい確保したいじゃないですか」

 3LDKのうち寝室以外には、段ボール箱が積まれていた。すべて、ねこのおやつ。

「ですがね、あなたが動物の保護団体に寄付しているこの『ねこのおやつ』で、すでに数十の猫たちが死亡しているんですよ」

 報道で知っていた。

 まさか、私が寄付したものが原因だとは思はなかった。

「開封もしていないんです。来たものをそのまま送っているだけです」

「いま、メーカーでも調べているんですが、海外に製造拠点があるのでね、ちょっと時間がかかります。それに、同じメーカーの品からは毒物は発見されていません。あなたが寄付したものからだけ、発見されているんですよ」

「うーん」

 捜査官たちが、段ボール箱をどんどん運び出していく。それはホッとする光景でもあった。見ることのできなかった壁にかけた絵が現れ、カーペットが見えるようになる。

 ねこのおやつをすべて運び出してくれた。

 任意で同行してくれと言われた。

 外に出るとマスコミがいた。写真を撮られた。

 なにもしていないのに。

 なにもしていないのに……。

「はははは!」

 刑事とクルマに乗る時、女の笑い声が聞こえたような気がした。

 慌てて窓ガラス越しに見回したが、それらしい姿は見えなかった。

 

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