第13話 とんそく

「足、見せてもらってもいい?」

「うん」

 車椅子の彼は、膝掛けで足をすっぽりと隠している。

 それを恥ずかしそうに外すと、剥き出しの奇妙な足があった。

 膝に金属のリングのようなものがはめられているが、その下には見慣れないピンク色の気味の悪い「足」になっていた。

「だいたい、半年で出荷できるんだ」

「いくらになるんだ?」

「大したことはない。だけど、こうしてぶらぶらさせているだけでお金になるからね。わざわざ膝から下の足が残っている障害者でも、ぶった切ってこの商売をしている人がいるよ」

「健康に影響しない?」

「この膝のところの装置で、完全に分離している。逆もあるからさ。ぼくがクスリとか飲んだとき、こっちに行っちゃうと売り物にならなくなる。検査で不適合になったらお金にならないんだよ」

 複雑な心境だった。身障者の下肢で豚の遺伝子から育てたいわばバイオ豚足を養殖するビジネスが秘かに流行していた。

「変だろ? 膝の下に腿があって、また膝があるんだ。蹄もあるんだぜ」

 彼はぴょんこぴょんことバイオ豚足を動かして見せた。

「動くのか!」

「いや、力はほとんど入らない。神経は通っていないから。だけどこうして、ぶらぶらさせたほうが、評価が高くなるんだ。まったく動かないままの肉質は、イマイチらしいんだよ。大きくならないしね。こうして毎日、適度にブラブラさせるとより大きくなるし、ほら、色艶もいいだろう? いかにもおいしそうじゃないか!」

 だが、家畜が肉になる瞬間をほとんどの人は見ずに焼き肉やとんかつを食べているのだ。

 最近、バイオ培養による手羽、スペアリブ、豚足、ホルモンなどを扱うお店が増えているのだが、それを誰がどうやって培養しているのかなど、知る必要はないのだろう。

 いつか私も培養する側になるかもしれないのだから。

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