第12話 ごはんいる?

 知らない人からのメッセージ。

「ごはんいる?」

 いる。でも、いらない。知らない人からは欲しくない。店なら別だけど。

「いるでしょ?」

 返事をしていないが、次のメッセージが送られてきて、ブロックしようと思う。

「いるんでしょ、そこに」

 んんん?

「わかってるんだからね。隠したってムダです」

 話がおかしい。

「どうして隠すの? やましいことがあるからでしょ?」

 ごはんにまつわる「やましいこと」が思いつかない。「いじましい」とか「いじきたない」とかなら、あるかもしれないが。

「はっきりして。いるの?」

 認めたとして、どうなるというのだろう。ここに「ごはん」がいる。そもそも「ごはん」の文字をさっきから何十回と見直してはいるのだが、冒頭の言葉を解釈すると「ご飯は必要か?」と尋ねられたのであって、「居る」とか「居ない」を尋ねられたとは思わない。

「居るよね? ごはん」

 要る、じゃないの?

「わかった。いまそっち、行く」

 こっちはなにも返事していない。

 チャイムが鳴った。

 玄関のモニターに、見知らぬ女がいた。恐ろしい形相。若いのか。

 知っている女かもしれない。

 思い出せない。

「居るよね。ふふふ」

 彼女は笑った。

 思い出した。思い出して、しまった。

 いたたまれない女……。

 

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