ねこのおやつ

本間舜久(ほんまシュンジ)

第1話 ねこのおやつ

 それは奇妙な依頼だった。


 ねこのおやつになってくれませんか?


 わたしは、自分の時間を切り売りする遊びをしていた。これまでデートの相手役としてのニセ写真撮影のモデルをしたり、パーティーのガヤ(にぎやかし)要員をしたり、週に一度は依頼を請けて二時間ほど楽しんだ。

 これは大学生の暇潰しではなく、一応、卒論のフィールドワークのつもりではじめたことだった。

 女子なんだから、危険じゃないの、と言われたことはあるものの、都内のオープンな場でしか引き受けないから特に面倒なことはなかった。

 でも、この依頼は請けてはいけないような気がした。

 ねこのおやつってなんだろう。

 その興味ばかりが膨らむ。

 返事をしてはいけない。

 頭の中に、ねこのおやつになっている自分の姿があった。

 それは、ちっとも不快なものではなく、むしろくすぐったいような喜びのあるもので、かといって官能的な感じというほどではなく、とにかくねこたちが楽しんでいるのだ。

 そんな夢を見る。

 だけど、返事はしない。

 新しい依頼が来た。


 ねこのおかずになってくれませんか?


 少し殺意を感じた。

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