第6話 ねこのおやつが

 私のスマホに残された伝言。それが彼女の最後の言葉だった。

「ねこのおやつが」

 なんだろう、これは。私は猫を飼っていない。彼女も飼っていない。キャットフードの会社とも関係ないし。

 そう聞こえるだけで、彼女は苦しみながら、違うことを言いたかったのではないか。

 たとえば……。「ねこのやつが」の言い間違いかもしれない。それは猫ではなく、「ねこ」と呼ばれる人のことかもしれない。それが彼女を殺した犯人なのかもしれない。

 いや、「ね、この、親が」と言いたかった可能性もある。ちょっと苦しいが。お互いに両親は健在だ。それとも犯人の親なのか。

 なにしろ、死ぬ間際に発した言葉だ。苦しいのはしょうがない。

 ねことは「猫」だろうか。それとも運搬に使う「ねこ車」だろうか。それとも誰かの愛称なのか。

 おやつ──。どんなに考えたところで、「おやつ」をおやつ以外に解釈するのにはムリがあった。

 やっぱり、素直に「ねこのおやつが」と解釈するべきなのか。だったら、意味はまったくわからないし、彼女がなにを言いたかったのかもわからない。

 警察は彼女がネットで、自分の時間を切り売りするバイトをしていたことを突き止めて、それといわばダイイングメッセージである「ねこのおやつが」を関連付けて捜査しているらしかった。

 もやもやしていたら翌日、仕事から帰ってくると宅配ボックスに荷物が届いていた。

 死んだ彼女から送られてきた品物。開けるまでもない。ねこのおやつだった。

 それがどうした。

 死ぬまで、そのことを考える人生を、彼女は私に残していった。

 少しは好きだった彼女が、嫌いになった。

 

 

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