第3話 ホットケーキ

 近所に数十年やっている喫茶店がある。いまだに分煙ではない。どの席にも灰皿がある。黒い陶器の灰皿だ。

 灰皿の横に、小さな自立するプラスチックのメニュー。中に紙をはさみ込むやつ。

 ホットコーヒー、アイスコーヒー、コーラ、オレンジジュースと飲み物が並び、一番下に「自家製ホットケーキ」と書かれていた。手書きだが、それを書いたのは何年前だろう。紙はやや黄色っぽくなっている。

 食べたいと思ったが、今日は時間がなさそうだった。もう行かなければ。

 昼下がり。コーヒー代を払っていると、店内のテレビに目がいった。表参道のパンケーキ店。その行列風景。古い番組の再放送ではないか。

 数日して、その店へ行くと、メニューの一番下に、真っ白い紙が貼りつけてあった。

「自家製パンケーキ」と書かれてあった。


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