第12話 第三章 陰陽師になりたくて(二)
龍禅がすぐに突っ込んだ。
「何が凄いんですか。郷田さん現象は、単純な筋力による現象でしょ。霊能力に関係ありませんよね。もしかして、さっき五百円玉を探したのも、五百円玉を握力で潰そうとしたんですか。いっときますけど、人間の力で五百円玉は曲がりませんよね」
「わかりました。じゃあ、俺が曲げられないはずの五百玉を曲げられたら、俺の勝ちでいいんですよね」
龍禅が理解できないといった顔で抗議してきた。
「筋力と霊能力はまるで違う力なのに、どういう理屈で、筋力で五百円玉を曲げたら、霊能力勝負で勝ちになるんですか。言っている内容がおかしいでしょ」
郷田は言い負けないように、渋い口調で反論をした。
「俺には貴女の理屈がわかりません。霊能力より筋力のほうが強いなら、霊能力をわざわざ使わずに、筋力を使えばいい。銃より刀が、刀より素手が強いなら、武器に頼る必要はない。違いますか?」
龍禅が突っかかるように、早口で念を押してきた。
「陰陽道を復興させに来た方ですよね。郷田さんは筋力だけで、陰陽道をやるつもりですか? それは、無理でしょう」
龍禅は中々弁が立つ女性だが、いい負ける訳には行かない。
負けじと、信念を篭めて持論を展開した。
「人類の歴史は、闘争の歴史です。闘争は、力を信奉する人間と、技術を信奉する人間の争いです。柔よく剛を制さんとすれば、剛よく柔を絶たんとす。ならば、霊能力による技の陰陽道に対抗する、筋力を主とする力の陰陽道があっても、いいと思いませんか」
龍禅が半笑いの顔で、全く理解不能だとばかりに否定してきた。
「そんな陰陽道はないですよ。というより、郷田さんの主張するものは、陰陽道ですらないですよ」
なんて話のわからない人だと思った。けれども、霊能者とは、そういう人種なのかもしれない。なら、とくと諭すまでだ。
「現存しないと、作れないは違います。ないから、作るんです。作ろうと努力もしないで否定するのは、その道のプロとして、間違っていませんか」
龍禅は困った顔をして、少し首を傾げて、砕けた口調で発言した。
「これ、なんか、思った依頼と違うわー」
龍禅は断ってくると思ったが、了承した。
「いいでしょう。引き受けたからには、やります。けど、成果が出なくても、知りませんよ」
ケリーが笑顔を浮かべ近づいてきて、郷田の手を取った。ケリーの手は、とても柔らかかった。
「郷田さんも陰陽道、やりに来たんですね。私もイギリスから陰陽道を習いに来ました。仲間ができて、嬉しいです」
「英国にも陰陽道があるんですか?」
ケリーが嬉しそうな顔で語った。
「はい、あります。英語ではヨウツイといいます。日本から渡ってきた陰陽師がイギリスにいたウィッチの技術体系を取り込んで、一緒に作ったそうです」
鴨川は隠していた。蘭学式の陰陽道はないけど、英国式の陰陽道なら存在した。鴨川も人が悪い。
なんか、英国式陰陽道って聞くと、やってみたい気もする。
郷田が興味を持ったが、ケリーは顔を曇らせた。
「でも、残念ながら、イギリスでは産業革命のさなかに、ヨウツイの技術は大半が失われました。ヨウツイの元となった片方であるウィッチであるレベッカの技は幾分か残っています。ですが、もう片方の陰陽師カモガワの技術が、ほとんどなくなりました。なので、私は陰陽道を学んで、ヨウツイを復元させたいのです」
なんとなく、事情がわかった。
おそらく、鴨川家では過去に出奔して異国に渡った人間がいたのだろう。ただ、現代と違って、昔は勝手に外国に行く行為は犯罪だった。
犯罪者を出した鴨川家では、出奔した人間の存在を消した。英国式陰陽道は鴨川家にとっても闇に葬りたい歴史。だからこそ、鴨川は洋式陰陽道を嫌って「ない」と言い張ったのだろう。
ひょっとしたら、郷田が作り出す新式鴨川新影流陰陽道とケリーが蘇らせる古流英国式鴨川新影流陰陽道ことヨウツイは、辿った歴史から見て、敵同士になるかもしれない。
ケリーの顔を見た。ケリーは純粋に仲間が見つかって喜んでいる。よく見ると、ケリーは小顔で、目がパッチリしていて可愛い。少しウエーブが掛かった金色の髪もいい。ケリー自体も悪い人間ではない気がしてきた。
敵には断固なりたくない。むしろ、ケリーは可愛い子なので、お近づきなりたい。もっと正直にいえば、ケリーといちゃつきながら和気藹々と陰陽道をできたらいいと思う。
可愛い子と友達になれて、その上、金まで貰えたら、陰陽師ってなんて素敵なんて職業だと思う。
色々と空想していると、龍禅がどこか怪しむような表情で声を掛けてきた。
「郷田さんはケリーの話を信じるつもりですか。英国式陰陽道なんて本当にはあると思うの?」
ケリーを否定されたようで気に障ったので、言い返した。
「ないとは言えませんよ。歴史なんて、どこでどうなっているか、わかりませんからね。情熱を持ってやりたい人間がいるなら、とことんやったらいいでしょ。そういうわけで、俺、龍禅先生とケリーさんと協力して、陰陽道をやります」
郷田の変わり身に龍禅が頬を引き攣らせて、あてつけがましく発言した。
「郷田さん、さっき私のことを信用していないって、言いましたよね。なのに、私に協力を求めるって、おかしいでしょ」
手の平を龍禅に向けて、キリッとした表情で宣言した。
「俺の中で、心の憲法解釈を変えました。龍禅先生がインチキ霊能者でもいいです」
龍禅が絶句したが、構わず言葉を続けた。
「先生がインチキでも、ケリーさんとなら陰陽道を一緒にやりたいんです。先生は邪魔しないように陰陽道を教えてください。あと、先生が悪徳霊感商法臭い商売をしようとしたら邪魔しますが、よろしくお願いします」
龍禅が口を開けたあと、歯噛みするように口を閉じた。
次に頬を引き攣らせて、刺々しい口調で嫌味を口にした。
「悪い意味で正直な人間とは、確かに聞いていましたけど、こういう意味だったのね。もう、ほんと、世話になっている人の紹介じゃなければ、こんな失礼な人間、追い返すところよ」
「では、次からは口に気を付けますね」
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