静かに襲い来る恐怖

作者様が紹介文にて、『心を気付かない程少しずつ切り取り続けていく恐怖を与え続ける事が出来ればと思います』と仰っておりますが、少なくとも私にとっては、その試みは成功していると言えるでしょう。

正直に申し上げてしまえば、私は最初の頃、この作品をどこかホラーっぽくないと思いながら読んでおりました。
しかしながら、この作品における『恐怖』とは、読み進めていくにつれて現れる現実と作品との境界があやふやになるような感覚、どこまでも捉えることのできない『彼女』の存在、全体を通して変わることのない精緻にして淡々とした文章、その全てが少しずつ運び来るものであったのです。

『少しずつ切り取り続ける』というのはよく言ったもので。
決して深い爪痕を残すわけではなく、しかしそれゆえにいつまでも心の中にとどまり続ける。
読了したとき、私の心の中には、確かにそんな『恐怖』が存在していたのです。

不気味にして捉えどころのない、それでいながら次へ進むのを止めることのできない、そんな不思議な作品です。

その他のおすすめレビュー

九十九 那月さんの他のおすすめレビュー36