知らねばならぬのは彼女の正体ではない、己の真の姿だ

恐怖とは、果たして何なのか?

不安を煽られることでもあり、災厄に怯えることでもあり、居るかどうかもわからぬ存在に恐れを抱くことでもある――けれど一番怖いのは、『当たり前だと思っていた日常がゆるやかに壊れていく』ことではないでしょうか?

『今の生活に満足している?』
彼女なる存在に、こう問いかけられた登場人物達は徐々に日常の歯車を狂わせていきます。いえ、『ズレていた部分を正しく噛み合わせた』と表現した方が正しいのかもしれません。

この描写が何とも不思議で、リアリティに溢れているというよりはもう少し引いた印象を受けます。

例えるならフィルターを通したような、第三者的な感覚。

もっとわかりやすく言うと、彼らの生活を隠しカメラで捉え、それを広い広い映画館でたった一人で観ているような、漠然としつつも明確な心許なさを覚えました。

ゆるやかに、しかし確実に心を侵食していく『恐怖』。
気付けば自分の耳にも、あの問いかけが聞こえてくるように思われ、読み終えた後は暫く放心してしまいました。

『今の生活に満足している?』

この問いに、あなたならどう答えますか?

心にじくりと不穏の影を落とす、新感覚のホラー作品です。

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