物語部員の栄光とその悲劇
るきのるき
第一章 盗まれた街
第1話 あと100日の命だと、うさんくさい易者に教えられたら、あなたはどうするだろうか
あと100日の命だと、うさんくさい易者に教えられたら、あなたはどうするだろうか。
10日だったらあわただしく身辺整理をして家族や友人たちとお別れをする。
1000日だったらしたいことはだいたいできる。10000日でも変わらない。
わたしの場合は、物語をひとつ作ってみることにした。
*
白美神(はくびしん)高校は、本校が幼稚園から大学まで古くからあるお嬢様学校なんだけど、その分校として20世紀はじめに関東の貧しい寒村(というほどでもないけど、今は中途半端な田舎)に設立された。そして21世紀の衰退しつつある日本の状況下、少子化に対抗するため中学・高校からの生徒も受け入れ対応にして、現在は他大学への進学率もけっこう上がって、県下では上から数番目ぐらいの、割と目指される高校になった。ただし女子だけである。
右を見ても左を見ても、女子しかいない。性同一性障害の子なら天国だろうけど、わたしにはすごく熱かったり寒かったりしない程度の地獄かな、ぐらいに思う。亡者がぬるま湯から出られなくなるぐらいの適温だ。
入学して始業式のあとのクラスの最初の自己紹介で「男子には興味なかったんでこの高校にしました」ってうかつなことを言ったら、その日のうちに先輩のお姉さんに「よかったら生徒会室のお茶会にいらっしゃい」とか誘われたんだけど、別に女子にも興味ないんから。
これが男子高だったらガチムチの先輩に「ロッカールームで待ってるぜ」と誘われたような気分だ。
勉強のできる子は変態(というと失礼だな。腐女子?)で、運動のできる子は同性にモテモテで、何をやっても普通の子は男の話をしている。自分の場合は普通を目指して何もかも中途半端になってしまった、日陰のヒマワリのような子だ。
ひとクラスの生徒は25人ぐらいで、そのうちの半分が中学からスライドしてきた子で、お嬢様である。勉強のできるお嬢様、つまり親が裁判官とか医者みたいな子はもっと偏差値が高い高校に行ってしまった。残っているのは、バカか変人のお嬢様だ。あるいはバカで変人のお嬢様。残りの半分は、バカではないがお嬢様でもない、ただの変人だ。あっ、これは言い過ぎだな。
同じ中学からこの高校に入った子(女子)は数人で、仲が悪いどころかお互い顔と名前ぐらいは知っていても顔と名前が一致しないぐらいの関係だから、わたしは新しく友だちと敵と子分を作らなければならなくなった。
始業式がつつがなく終わると、わたしたちの携帯端末には生徒全員のクラスと偽名と席がすぐに生徒限定で公開される。偽名はネット上のアカウントと同じでいつでも変えられるから、知ってても知らなくても同じことだし、真名は基本的に知られてはいけないことになっている。わたしが死なない限り、わたしの真名(本名)は同級生にも知られない。人を殺しても知られない。さすがに担任の教師は知っているはずだ。だから学校関係者は殺せない。まあそれは冗談だけどね。
1年生のクラス配分は、偽名で知られている過去のやっかいな個人情報を検索して按配したらしく、わたしはこの学校で唯一の顔なじみかもしれないルキノさんと一緒だった。おまけに真横である。
ルキノさんはこの学校の古いタイプの制服(あまりにもレトロすぎて、大正時代の建物が似合うような濃紺のセーラー服)を着ていた数少ない同じクラスのひとりだった。ということはつまり、白美神中学からスライドしてきた子で、家が超貧乏か超金持ちかのどちらかという意味である。高校の今の制服はすこしおしゃれな、と言っても21世紀風ではなくせいぜい20世紀末的なレベルのおしゃれなブレザーとブラウスとスカートで、生徒はどちらも選べるのだが、あえて旧ザクタイプの制服を選ぶ外部からの生徒はいない。
始業式がはじまる前の講堂のところで、なんか目立つ子たちがいるなー、と思って、なるべく目立たないように通りすぎようと思ったら、そのうちのひとりにいきなり外国人みたいにハグされそうになって、あんた誰やねん、と思ったらそれがルキノさんだった。今までおしゃれで金がかかっている私服とほぼダテっぽい眼鏡をかけてるルキノさんしか知らなかったので驚いたよ。
わたしとルキノさんの関係は、映画館でこっそり会って、妄想物語を交換する程度の仲である。
わたしの名前はオズと言う。嘘だけどね。本当はまあ、アキってことにしておく。このテキストはしょっちゅう、明白な嘘と曖昧な嘘が混在するが、あまり本当すぎることを書くと個人が特定されてしまうからごまかしている場合と、作者が設定を忘れてしまう場合と、どうでもいいから適当に書いている場合が複雑に混ざっている。それについてはあとでくわしく説明するかもしれない。
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