第13話 そこな町人ども、無礼を働くとただではおかぬぞ
日曜日の商店街は人が多かった。わたしは、目つきが鋭い赤髪の、とても素晴らしく目立つ人のところに走り寄った。
「助けてください、悪者に追われています」
わたしが4人の中では一番町娘らしく見えるから、ということでルキノさんがその役を割り振ったのである。悪者は選り抜きのクズを用意しておくから、ということでルキノさんのコネで3人ほど、不良っぽい男子が集められた。えー、俺たちがそんなことやるの、気が進まないなあ、と、県立の中でも有名大学への進学率ナンバーワンの高校に通う、将来警察庁とかの国家公務員になりそうな人たちだった。
「やいやいてめぇ、どこのどいつだ。邪魔するとただじゃすまねぇぞ」と、男子Aは言った。
「まあ待て。いったいどうしたというのだ。訳を聞こうじゃないか」と、赤髪の人は言った。
「どうもこうもねぇや。このアマっ子が、おれの服にコーヒーをかけて知らん顔して行きやがるから、どうしてくれると言っただけのことよ。このシャツ高いんだぞ」と、男子Bは言った。
本当にごめん。かけたコーヒーはホットではなくてアイスなのがせめてもの思いやりである。
しかしなんで、こんな素人芝居みたいなことをわたしがやらなければならないのか。
「ははあ、読めたぞ。お前らはこの町のチンピラ、を装って、実はこの子に頼まれて素人芝居をやっているな。今どきそんな、サングラスにアロハ、ブルージーンズなどという昭和の時代の不良など、世紀末のライトノベルにも出てこない」
「お、俺たちはこの女に頼まれたわけじゃないぞ」と、男子Cは言った。
そうだね、頼んだのはルキノさんだ。
*
映画館の中ではその人は、だらしない格好でニンジンをかじりながら、昔のスクリューボール・コメディを笑いながら見ていた。座っていた席は前後方からも左右からも中央の席で、わたしたち3人は最後尾の席に並んで、同じ映画を見ていた。
「あいつの行動は、だいたい把握している。映画が終わったらショッピングモールの中にある書店で1冊本を買って、フードコートで食事をして、駅前とモールを往復しているシャトルバスに乗って、駅前の商店街を散策して、電車で帰る。先回りしよう」と、事前打ち合わせの際にライミは言った。
*
今の状況では、どちらが悪者か判断できないなあ、と、その赤髪の人は言ったので、仕方がないからわたしは特殊スキル「同意させる」を使った。これ使うと、50メートル全力疾走するぐらいのエネルギー消費するんで堪忍して欲しい。あとでルキノさんに何か甘いものおごってもらおう。
「あの人たちは悪者です」
「やっぱりそうなんだ、あいつらは悪い奴か」
「で、わたしは無実の町娘」
「今どき町娘ってのはないけど、まあそういうことにしておいてもいいや」
「で、あなたは親切なお侍さん」
「そこな町人ども、無礼を働くとただではおかぬぞ」
「面白い。どうするのか見せてもらおうじゃないか」と、男子Aは言った。
「こうするんだ」
赤髪の人は全力で逃げた。
え、えーっ、そんなのあり? と呆然としている雇われ男子に代わって、ルキノさんがその人を追いかけ、わたしは100メートル走の後半50メートルを走るぐらいのヘトヘトさで続いた。
ライミが言ったとおり、確かに短距離走の練習しておいてよかった。
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