第12話 対人のスポーツは、自分のリズムを作ったり相手のリズムを乱したりするんやね

 走り終わったり、バスケの練習をしたあとはグラウンドとコートの整備をした。ライミは超ローアングルで、数ミリの小石も残らないように目視確認をするため顔と手と服が土まみれになるから、シャワーの時間はわたしたちの倍ぐらいかかった。何日か続けていると、一緒にトレーニングはしないけれど整備を手伝ってくれる子も何人か出てきた。アキは注目されてる新入生だから、とルキノさんは言うけど、それはルキノさんが一緒にいるからなんじゃないかなあ。

 体が大きくて無口で、ロープレだと盾役かメイスを振り回す人役みたいなのがパルマで、ルキノさんとはどういう関係だったの、とわたしが聞いたら、それはルキノさんがいないところで教える、って答えてくれた。

 ルキノさんによると、パルマはライバル、って思ってるんじゃないかなあ、と言った。

     *

 朝から雨でバスケのコートや周りの地面もぐしょぐしょだった日に、わたしたちはバスケ部の人たちと体育館で練習試合をしてみた。短距離走で陸上部の先輩と競ったときのライミみたいに、ほどほどにひどい負け方をした。素人相手に容赦ない人たちだった。

「対人のスポーツは、自分のリズムを作ったり相手のリズムを乱したりするんやね」と試合後、ライミは説明をはじめ、わたしたちはまた先輩たちからおごってもらった缶飲料を手に持ち、うなずきながら聞いていた。

「バスケはシュッ、バン、ポン、スッ、の4拍子を5人で刻むわけ。で、コートの中は違うふたつのバンドがガンガン音を鳴らしてる状況だ、ってイメージするのよ。ひとりのときはまず、自分がどの楽器の担当なのか把握したうえで、それを極める。でも、みんなでやるときは仲間と敵の動きを察して、相手のリズムに割り込む。半年ぐらい真面目にやれば、簡単に勝てるよ。うちのバスケ部が強いわけないやん」と、相変わらずライミは減らず口を言う。

「それがー、はい」と、ルキノさんは物語部に置いてあるアップライトピアノを弾きながら歌った。

「それがー、それがー、うつくしーい、ハーモニー」と、わたしたちの歌はボニー・ジャックスのようにハモった。女性だからソプラノ(ルキノさん)、メゾソプラノ(わたし)、アルト(ライミ)、それにテノール(パルマ)の偽四部合唱である。

 けど、わたしが半年後まで生き延びられることができるのだろうか。うさんくさい易者が左の二の腕に墨で書いた数字は毎日1つずつ減っていってて、今はもう春アニメが終了するぐらいまでの日数になっている。

 いつも週末の土曜日に見ていた午前十時半の名画フェスティバルを、わたしたちは日曜日に見ることにした。その前に、わたしたちの学校の物語部(仮)で、わたしたちが土曜日にどんなことを語っておいたほうがいいのかな。さらにその前に、わたしが出会った易者についてのほうがいいのか。こういう、どんどん進む物語の、ちょっと振り返らないといけない設定を組み込むのって難しいよね。

「ウサギ狩りだ!」とわたしたちは張り切って、狩りにふさわしい格好で集まった。ルキノさんはおしゃれなハンチング帽までかぶっていた。わたしは単に走りやすい安物のパンツをコーデしただけである。ファッションコーデ対決なら戦う前に「本当にそれでいいの?」とかアドバイザーに言われそうなところだ。

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