第三章 火星人ゴー・ホーム

第11話 実はひとり確保したい人がいるんだけど、多分そのときに役に立つよ

 ライミという偽名を持った子が、わたしたちの学校の校舎に面した古い運動場で早朝トレーニングをはじめたので、わたしたち、つまりわたしとルキノさん、それにパルマはつきあうことになった。

 まず、スタートとゴールにひとりずつ立って、ふたりが走る。次に、走らなかったふたりが交代して走る。ゴール担当はスタート位置まで戻って走る。

 要するに、みんなが3つの役をやって、2回走る。でもってそれを2セットやるから、4回走る。50メートルは真面目に走ると1000メートルより大変なんじゃないかと思った。

 そして、グラウンド整備をして、シャワーを浴びて、あたたかい飲み物を手にして、特別教室1階の図書室のとなりにある物語部(仮)の部室で、わたしたちは話をするという日々をしばらく送ることになった。

 体を動かすのは楽しいけど、人に言われて何かをやるってのはなんか違うんじゃないかと思って、と、ライミは言う。有名選手のランニング動画をいろいろ借りて走りのれんしゅうをして、ライミの助言を聞いてたら確かにすこし早くなったような気がした。

「でも、こういうのってなんか意味あるのか」と、わたしたちのメンバーのひとりで、一番運動神経がある(運動に関してのセンスがあるように見える)パルマが聞いた。

「実はひとり確保したい人がいるんだけど、多分そのときに役に立つよ」と、ライミは意味深に言った。

 それからわたしたちは、バスケの練習を、雨ざらしの、もはや誰も使っていない赤錆に覆われたゴールポストを使って練習をした。なぜだか、遠くあるいは近くから、わたしたちがしていることを興味と侮蔑と憧憬の目で見ている人たちがすこしずつ増えていったような気がする。

     *

「1ミリの中に10本の線が引ける?」と、ライミは聞いた。

「数えながらならね。あとちゃんとした道具があれば」と、私は答えた。

 ライミとパルマは、わたしとルキノさんが毎週見ていた、午前十時半の名画フェスティバルのことを知っていて、しかもやはり毎週見ていた、とのことだった。なぜ今まで会わなかったかというと、わたしたちは土曜日で、ライミたちは日曜日に映画館に行っていたためである。

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