(第10話) まず、おおお落ち着いて、お互いに話をしようよ
ミネコが真夢を見たのは12の年、夏の盛りが近づいてきていたある夜のことだった。それは遅すぎも早すぎもない。ヒトは十代のはじめから半ば、幼児期の終わりから成熟期のはじめあたりで、再生以前の自分の魂が、どのようなヒトと関連づけられていたかを、真夢によって知る。
ヒトの魂は不滅で、しかしこの体もまたいつかは浄化の定めにあることを知った者は、自分が存在を認められた、つまり見つけられた教会の地区委員に告白をする。ミネコは、領主を仮親とする多くのきょうだいと同じく、教会外で見つけられたステゴだったので、告白と祝福の相互関係を築くべき相手はおらず、仮親だった当時の領主に相談に言った。
大多数の領主は、血縁を排して統治することを望むため、かなり昔から次の領主をステゴの中から選ぶことにしていた。ミネコを拾った仮親の領主はとうに引退していて、海の近くの研究所で海流の調査研究をしていたため、直接対面してではなく電磁動画で話をすることになった。元領主は、ミネコが知っていたときよりふっくらしており、日に焼けて健康そうに見えた。
「おめでとう。で、どんな夢みたん? 姉やきょうだいにも言えず、地区委員にも行政官にも言えないようなことでも、私になら言えるよね!」と、元領主はミネコに聞いた。
「えーとですね、天狗がわたしをかっさらって、じゃなくて、じゃなくて、サギを田んぼで捕まえてたら、捕まえたサギが目を覚まして、空を飛んで」
「相変わらず嘘がヘタやね。でもちょっと待って。空を飛ぶって。それ、真夢としてはおかしいな。ヒトにはそんなことできないのでは」と、元領主は言った。
空と、その先の宇宙へ行くことは、ヒトに対して神が禁じているはずだった。だから、飛行機は存在しても亜人しか利用できない。亜人は魂を持たず、真夢も見ない。
*
ミネコが見た真夢は、爆発の熱気と痛み、そして薄く冷たい空気の中で喘ぎながら冷える肺、虹色に輝く海を下に、どこまでも落ちていく自分の体だった。落ちる途中でその魂は意識を失い、水の中に落ちた水晶のように大気の中に隠れた。濃い藍色と黒い宇宙が、下の世界とつながっていた。
そしてかつて誰かであり、今はミネコであるミネコは、寝汗と過呼吸と嘔吐を伴って、この世界で目が覚めた。
最初にその誰かは、自分の寝台とその寝衣に違和感を感じ、え、ここってファンタジー世界みたいなの、と思った。そして部屋の窓に近づいて、払暁の町を見下ろし、空を見上げると、定番のドラゴンが飛んでる、というのはないんだな、と思った。
ミネコにはふぁんたじい、とか、どらごん、とはどういう意味なのかは一瞬不明だったが、要するに違う原理が支配している世界、飛竜という幻獣の話だとわかった。
「まず、おおお落ち着いて、お互いに話をしようよ」と、誰かは全然落ち着いてない口調で、ミネコの口を使って言った。
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