(第8話) いい考えがある。店を出て歩きながら話そうじゃないか

 定期的におこなわれる物語の作り手たちの集まりは市街地の、普段は数人による楽器の演奏会などに使われる喫茶で、ヒト用に特化した輸送車両の停車地から歩いて5分ほどのところにあった。

 近隣に住居を持つ創作者は非定期的に集まり、主に電子的共有が認められない非合法な物語の交換をする。失われた物語の再発見物や、異国の複雑な方言を読みやすいものに変えたりしたものも回されるが、最近の主な交換物は異世界転生をした登場人物が主役の物語だった。

 集会は11日に1度開かれることになっていた。なぜ7日でも10日でもないかというと、あまり頻繁とは感じさせない程度であり、かつ仕事の関係で来にくい者に対して、決まった曜日の夜にならないことを配慮した結果だった。ミネコは領主の同類であることを示す「ミ」ではじまる偽名を隠すため、そこでは「ルミネ」という偽名を使った。

「久しぶりだな、小さいの」と、ミネコは公の偽名と職業を隠さない焚書官ソナエに声をかけられた。ソナエはすでに酩酊系の飲料を数杯と、腹が膨れない程度の乾物を口にしていた。小さいのは姉のせいで、わたしのせいではないのだが、と、ミネコは思った。

 焚書官というのは自称で、書物もヒトも焼いたことは特にない、と、ソナエは名乗りをするときに言った。確かにその公的偽名を持つ人物は国に属する組織の一員として存在していることは確認できるが、国民によって選ばれる職ではないため公的偽体の画像は公開されていない。しかし、ソナエが複写した簡易紙で持ち込む山のような物語は、そのような者でなければ接することのできない禁書のはずだった。

「そういうの読むって、面白いの?」と、ミネコは前に聞いたことがあった。

「禁書だから面白い、ということはない。個人的な感想としては、だいたいは読まなくてもいいようなものだ。おれは、そういう判断をする仕事じゃないから。せっせと「当分の間隠すこと」という署名をして、次の皇帝と焚書官に公開の判断をまかせるだけ」

 ソナエは、この国のヒトとしては十分に大きく、手でさばいたような美しい、うなじを隠す程度の長さの赤髪もあって、集会の中ではとても外見的に目立つ体型をしていた。倦怠に覆い隠された自信は、たぶんソナエも異世界からの転生者だということを隠しているために違いない、と、ミネコは思った。

「ところで、お前の物語作り、進み具合はどうよ」と、ソナエはミネコに聞いた。

「まだ先が見えなくてね。結末だけは書いてあるから、あとはせっせとそこに向かって話を動かせばいいんだけど」と、ミネコは答えた。

「要するに、話がうまいこと進まない、ってことか。いい考えがある。店を出て歩きながら話そうじゃないか」と、ソナエは言った。

 ミネコが作っている物語は、異世界転生をした主人公が出てくる物語を書いているという設定の、別の世界の、ミネコと同じぐらいの年の子に関する物語だった。

「それは確かに違法すれすれの合法っぽい判断が可能だけど、そこまでして世に出したい物語かなあ」と、ソナエは商店街を歩きながら話を続けた。

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