第3話 わたしは面倒くさいので、6時半ぐらいに学校に行くようにしてみた
わたしはルキノさんと知り合いになった、つまり偽名を知った日に、その偽名で検索してみた。みんなもしてませんかそういうこと。普通にひっかかるのは自動車とゲームとイタリアの有名な映画監督である。多分、ルキノさんは一番最後のものから借りたんだろうな。
一般的に偽名は、検索されても問題はない、というかノイズが多すぎてうまく検索できないものを選ぶことになっている。わたしの「アキ」とかみたいにですね。別に「コスモス」でもよかったんだけど、ネットに自力で接続できるようになってからずっとその偽名で、未だにわたしの個人情報は不明のはずだ。
ところでためしに「ルキノ デマ」で検索したら、もうすこし面白いものが見つかった。つまり、ルキノさんに関するデマを飛ばしている(ノイズを増やしている)数人の人たちと、それに乗っかっている数十人の人たち、それにそれを否定している数十人の人たちだった。
さらに「ルキノ 嘘」でも検索してみると、まあ何というか。ルではじまる偽名っていろいろあるんだな、としか。
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わたしが通う学校は小高い丘、縄文時代のように今より海面が上のほうにあった時代にはたぶんこのあたりにいくつかあった島のひとつだったろうなあ、と思うようなところにあって、校門まで続く坂道は地獄坂とか遅刻坂とか言われているのは、日本全国のあるある高校ネタ・ベスト5に入るようなものだろう。わたしの家(仮)から学校までは自転車で5分、歩いて15分ほどの距離なので自転車で通ってみることにした。
初日は坂の下から上を見て、これは体力的につらいだろうと、学校付属の下の運動場に自転車を置いて(そこにはほかにもいくつかの、学校乗り入れが認められている自転車が置かれていた)、歩いてのぼったんだけど、考えてみたらずーっと、こぎ続けてのぼらなくてもいいじゃん、ということに、回りを見て気がついた。降りて押して歩くもんなんだな。
坂道から丘の上の学校の回りまで、ずっと桜の花が広がっていて、あちこちに花溜まりができて、風でくるくると舞っていた。わたしの前にも後ろにも降りて押している自転車の列ができて、そのうちのいくつかはだらだらと、歩いて通っている友だちと話をしながら進んでいる。追い越したい気持ちになるが、それはひどく冒涜的な行為のようだったので、わたしはさらにだらだらと坂をのぼった。
同じクラスの、仲よさそうな一団のグループがわたしを追い越しておじぎをして、笑いながら走っていった。どうもそういうのにはつくづく不慣れなもので、わたしは立ち止まって携帯端末を開き、クラスの座席表のその子たちに赤い色をつけてみた。窓際前方の席にまとめて置かれているのに気がついた。
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学校から歩いて5分ほどのところにある最寄りの駅には、朝夕のラッシュ時には20分に1本の電車が停まり、朝の7時台には同じ学校の生徒が固まりとなって降りてくる。それはさらにいくつかの小さなグループになって、魔王城みたいな学校に攻め込む。ゲームと違うのは、グループ構成がバランス取れてるというより、似たようなメンバーになることやね。僧侶ばっかとか、勇者ばっか、みたいな感じで。
わたしは面倒くさいので、6時半ぐらいに学校に行くようにしてみたんだけど、いるもんだね、体育会系の子が。校門の前にいた学校警備のお姉さん(お兄さんは原則として派遣しないそうである)が元気よく挨拶して、わたしの学生証をちらっと見て通してくれた。そんなに早く来てもすることがないので、新校舎の4階にあることを確認しておいた図書室と自習室に行ってみたら、朝7時から夜8時までしか開いてないとのことだった。朝はともかく、そんなに夜まで勉強する子がいるんだろうか不思議なんだけど、きのうは多分いたよ。夜の7時台までは確認ずみだった。いつまでいても追い出されないので変だとは思ったけど。
校庭の、運動部が早朝練習をしているのを、わたしは新校舎の前のベンチで観察しながらうとうとしていたつもりが、いつの間にか頭の中が物語で一杯になって、気がつくとわたしのスプリングコートの上に厚手のタオルケットがかけられていて、隣でルキノさんがにこにこしながらわたしを見ていた。膝枕まではしてくれなかったので、わたしの体液(ていうかまあ、よだれですね)でルキノさんの服を汚すようなことはなかった。
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