第4話 なんかカレが二股かけてるみたいなんだけど、どうすればいい?

 女子同士の話は面倒くさいと同時に簡単だ。つまり、解決法ではなくて共感を示せばいい。

「なんかカレが二股かけてるみたいなんだけど、どうすればいい?」って聞かれたら、「そうなんだー、大変だねー」と答える。

「あんたもやればいいじゃん」とか「まずその事実を確認し、つきあってる女をつきとめ、弱点をつかんで罠にかける」とか言ってはいけない。「そんなこと聞いてんじゃねーよ」ということになる。つまり理系じゃなくて文系の手を使うわけね。

 あと、私の友だちが、ではじまる話は、当人の話に決まってるけど、それを指摘しないこと。

 もうすこしましな問題を考えると、たとえば時速○キロで流れている幅○メートルの川を時速○キロのボートで渡るにはどのくらいの時間がかかるか、みたいな。

 解答じゃないけど多分正しい答えは「大変だよねー」。

 ちゃんと計算すれば本当に正しい時間がわかる。

 ルキノさんは、そのボートの形状と、どうしてそこに置いてあるか知りたがる人だった。すくなくともわたしに対しては。でもって、あなたの物語に必要なら、時速100キロのボートも手配します、って言う。

 世の中がすべて、数字だったり、pとかqとかmとかnでできてるって限らないんだよね。

「もしあなたが桃太郎だったら、キジを使って対岸にロープを張ればもっと簡単に渡れますよね」と、ルキノさんは言った。それは、桃太郎が川を渡る物語をわたしに作らせたい、ということなのか。

     *

 わたしが朝の6時半ぐらいに新しい学校に登校して、運動場に面したベンチでうとうとしてたのは7時ごろだけど、ルキノさんも多分同じぐらいの時間に来て、わたしを観察していたんだろう。なぜそうしたかと聞くと多分、私がここにいることが、あなたの物語に必要だと思ったから、と答えるはずだ。わたしは、自分とそのまわりの世界が物語だとは思わない。物語でないと困る誰かさんがいる気もしない。

「私の指の先を見て」と、ルキノさんは言った。

 今まで非常に意識的にぼかしていたんだけど、一応ルキノさんの容姿について話すと、大きなすみれ色の瞳(虹彩)と、黒の中にすこし緑が混じったセミロングの髪で、特に大きかったり小さかったりすることはない、バランスの取れた体型だ。

 わたしは交換したてのエンジンオイル色(に見えるらしい)の瞳(虹彩)と、同系色の髪をボブカットにしている。ルキノさんに偽名を知られる(というか、教え合う)前まではもっと長いふわふわ系だったけど、それはくだらない物語に出てくるヒロインの髪型、と言われてみじかくしたんだっけ。

 ルキノさんの指を含む手全体は、柔らかそうに見えて、手先や爪の手入れもきっちりしていて、つやつやですべすべだった。それはともかく、その指の先には、わたしが知っている子がふたりと、知らない子がひとりで何かを話し合っていた。知ってる子と言ってもそれはこの学校に入って知ったばかりなので、名前と顔が一致するぐらいの関係である。

 ひとりはやや小さめでスレンダーな体型をしていて、全体に黒い感じの、わたしと同じくほかの中学から入ってきたライミ。それに全体に大きくて迫力を感じさせるパルマか、と、わたしは携帯端末を見ながら確認した。

 ライミは多分来見(くるみ)さんとかいうのが真名なんじゃないかと思う。

 パルマはさっぱり真名の推測ができない。

 ルキノさんはだいたい、真名はマキノさんじゃないかと勝手に判断している。

「ライミが揉めてるのは、陸上部の先輩とシャワーの使用優先権についての意見調整で、先輩後輩関係ないでしょ、自分のほうが先に来て先に引き上げるんだから、という主張ですね。先輩は、別にかまわないけど、だったらグランド整備するとかないの、というまっとうな主張。パルマは、面白いから短距離走で決着つけないかとそそのかしている」と、ルキノさんは説明した。

 わたしは、そのレースを観戦して分析するために携帯端末のカメラを向けることにした。公開・共用しなくて私蔵する分には問題ない、というわたし自身の勝手な判断だけど、そこらへんはどうなんだろうなあ。

 勝負は写真判定が必要なレベルではないぐらいの差で、ライミが負けた。

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