仄暗き世界で、人と妖魔と精霊たちの言葉に酔う

生まれつきこの世の光を見ることが叶わぬ代わりに、精霊たちの声を聴き、かれらの目を通じて世界を視ることのできる娘・シルルース。かつて大神殿で『夜闇の巫女』と畏敬され、巫女姫キシルリリに仕えていた彼女だったが、今は一介の薬師として、昏(くら)き森の中に建つ小さな水車小屋で暮らしていた。心優しき妖魔・ザルティスとともに……。

ある日、ザルティスとシルルースは、大神殿の護衛でありながら殺人の嫌疑で追われる貴族の青年・キリアンに出会った。傷ついた青年を介抱するふたりの許へ、巫女姫の命を受けた術師と騎士、妖獣狩人がやって来る。水の精霊たち、風の精霊たちをも交えた攻防の果てに、妖獣狩人に相対したシルルースだったが……。

高位の妖魔「天竜」が統べる仄暗い世界で。精霊たちと妖魔と人の子が繰り広げる、神話と愛と戦いのファンタジー。



同一の世界設定で書かれた他の作品がすでにあります。そちらを既読の方にはいうまでもありませんが、世界の創生から、「狭間」といった時空の概念、妖魔、妖魔と人間のあいだに生まれる「罪戯れ」の存在、人間側の社会構成など、綿密に創り上げられた物語です。
人と妖魔の暗い情念が全編をおおい、重厚かつ滑らかに織り上げられた、天鵞絨のような雰囲気になっています。決して明るく朗らかな話ではありませんが、リーやマキリップなどの翻訳ファンタジー、ケルティックな世界設定のハイファンタジーがお好きな方には、馴染みのある雰囲気と思います。
異類婚を含む恋愛ファンタジー、ダーク寄りのシリアスな物語がお好きな方に、お薦めします。

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