人間と妖魔や妖獣が共存する「大陸」と呼ばれる世界の物語です。
あたかも実在するかのように、緻密に練り上げられた世界観は、圧巻のひとことです。
積み上げられた歴史があり、文化があってこその価値観があり、この世界で、人々は確かに生きています。
海外ファンタジー作品がお好きな方なら、この世界観を感じた瞬間に、物語の虜になると思います。
しかし、実は私、海外ファンタジー作品を殆ど読んだことがないのです。
なのに、この物語の虜です。
それは何故か。――この物語世界の人々が、「生きている」からです。
登場人物は、皆、心に闇を抱えています。
ヒロインのシルルースは、精霊の声を聴くことができますが、心の清らかな天使のような娘、ではありません。
苦しい恋と闇を抱えながら生きる、生身の少女です。
物語の第1章では陰謀に巻き込まれ、第2章では彼女の過去が語られます。決して恵まれた環境ではありません。けれど、彼女は懸命に生きています。
彼女と、彼女を取り巻く人々のやり取りが、実に人間らしい。
人と人が触れ合うことで、時にぶつかるかもしれないけれど、支え合う。その強さ、切なさは、現実の世界にも共通するもので、激しく胸を打ちます。
ぜひ、あなたもご一緒に、彼らの世界を覗いてみませんか?
人と妖魔の共存する世界。盲目の薬師シルルースは、彼女を庇護する妖魔と共に、森の中でひっそりと暮らしています。
心の中に、ある人への想いを抱きながら。
しかしある日、彼女の前に現れたのは……。
重厚でありながらしなやかな文章で語られる物語は濃密で、読者を作品の世界に深くいざないます。
その独特の世界は、おそらく作者様の膨大な知識を背景に紡ぎ出されたもので、人や妖魔、精霊達の息遣い、国々の歴史や関係など、実に緻密に、そして自然に織り上げられ、広がっています。
そして登場人物達の、心の闇と、複雑できめ細やかな想い。それらが時に切なく胸に迫ります。
彼らがこの後、何を想い、どうなるのか。
いつも作品が更新されるのを楽しみにしています。
一人の時間に、少し灯りを落として、じっくりと読みたい。そうすればより深く作品の香りに浸れると思います。
生まれつきこの世の光を見ることが叶わぬ代わりに、精霊たちの声を聴き、かれらの目を通じて世界を視ることのできる娘・シルルース。かつて大神殿で『夜闇の巫女』と畏敬され、巫女姫キシルリリに仕えていた彼女だったが、今は一介の薬師として、昏(くら)き森の中に建つ小さな水車小屋で暮らしていた。心優しき妖魔・ザルティスとともに……。
ある日、ザルティスとシルルースは、大神殿の護衛でありながら殺人の嫌疑で追われる貴族の青年・キリアンに出会った。傷ついた青年を介抱するふたりの許へ、巫女姫の命を受けた術師と騎士、妖獣狩人がやって来る。水の精霊たち、風の精霊たちをも交えた攻防の果てに、妖獣狩人に相対したシルルースだったが……。
高位の妖魔「天竜」が統べる仄暗い世界で。精霊たちと妖魔と人の子が繰り広げる、神話と愛と戦いのファンタジー。
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同一の世界設定で書かれた他の作品がすでにあります。そちらを既読の方にはいうまでもありませんが、世界の創生から、「狭間」といった時空の概念、妖魔、妖魔と人間のあいだに生まれる「罪戯れ」の存在、人間側の社会構成など、綿密に創り上げられた物語です。
人と妖魔の暗い情念が全編をおおい、重厚かつ滑らかに織り上げられた、天鵞絨のような雰囲気になっています。決して明るく朗らかな話ではありませんが、リーやマキリップなどの翻訳ファンタジー、ケルティックな世界設定のハイファンタジーがお好きな方には、馴染みのある雰囲気と思います。
異類婚を含む恋愛ファンタジー、ダーク寄りのシリアスな物語がお好きな方に、お薦めします。
『ロード・オブ・ザ・リング』のような、重厚なファンタジー世界に夢中になりたい方にオススメの物語です。
「聖なる天竜(ラスエル)」「天竜の統べる王国(ラスエルクラティア)」「罪戯れ」など、冒頭から次々登場する物語オリジナルのキーワードたち。
もちろん、はじめて聞く言葉ばかりです。
でも、物語世界のエッセンスをこれでもか!と凝縮した、知的で濃密な語りに導かれて、読み進めるうちに、あれよあれよと脳内の公用語になっていきます。
「第1部:昏きに沈む」で描かれるダイナミックな攻防戦や、盲目の巫女シルルースや妖魔ザルティス、ネタバレになってしまうから書けないあの方やこの方など、魅力的な登場人物が繰り広げるストーリーに興奮する喜びはもちろんのこと、人物の過去や世界を少しずつ覗いていくような、知的好奇心をくすぐられる喜びを同時に味わえて、「読書」を満喫できる作品!
今後も楽しみに読ませていただきます。
(※まだ物語は途中ですので、レビューはのちほど編集します)