花ばなを案内人として、十二のこころを巡る。

異性へのときめき、ふんわりとした温かな気持ち、待つじれったさと昂揚感、伝えられなかった言葉、手放した思い、さまざまな「僕」の十二の思いを載せて一年がぐるりと巡る。

花々に彩られた、繊細で多感な年頃の男の子の心情がほほえましく、ときに読み手の恋の記憶をもチクリと刺激し、懐かしさをおぼえるとともに、切なくもさせる。

私が特に気に入ったのは、以下の三話。
・弥生(三月)…ハクモクレンの描写が秀逸、花の散り方と伝えられなかった思いが上手く重なっている。
・長月(九月)…誠実でありたいがゆえに取った相手の選択に納得しつつも、心が痛む。桔梗の青の鮮やかさが心に沁み、自分の越し方をも振り返りい、胸に刺さる。特に女性読者に読んでいただきたい一篇。
・極月(十二月)…「早く来て!」ジレジレ、ドキドキしているうちに、雪ダルマになっちゃいそうだね。ふふふ。

作者さんはその身辺雑記から拝するに、私より上の年代の男性だが、これほど色彩豊かに、瑞々しいお話を執筆されている。その事実にも驚く。

と、感心し、また微笑みつつ読了したが、ただ一点惜しいと思われるのが、タイトルと惹句。いま少し工夫なされば、より多くの読者の方の眼にもとまり、お客の袖を引けることと思われる。せっかくの素敵なお話なのだから、ラッピングも…と欲張ってみられては如何。

と若干の要望も書かせていただいたが、むろん楽しませていただいたことに変わりはなく、女性にも男性にも読んで欲しい連作である。読めばあなたのお気に入りの一篇が、必ず見つかるはず。

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