僕たちのスケッチ

湯煙

一月 : 待ち望む睦月

 目の前に広がる林の地面には、雪がところどころに見える。

 茶色の地肌のほうが多くてまだらになっているけれど、あと一度雪が降れば、きっと地面は真っ白になるんだろうな。


 ここいらは三月になると、鮮やかな黄色の福寿草がたくさん咲くんだ。淡い香りがする小さくて可愛い花が咲くんだよ。


 でも、まだ一月だから、空気は澄んでいてかなり冷たい。

 眺めてる僕の息も白く、視界の端に漂っている。


 こんな寒空の、林の下に見える葉のどれかが花を咲かせるんだろうなと今は想像するだけ。

 

 懸命に力を蓄えているんだろうな。

 花を咲かせるその時を待っているんだ。

 小さくても色鮮やかで、ほんのりとした香りの花を咲かせようとしている。

 そう思うと、福寿草は、冬休みの終わりを待つ僕のように感じた。


 休みが終わったら、僕は彼女に告白しようと決めている。


 同じクラスになってから、ずっと彼女のことを見つめてきた。

 授業中も、休み時間も、三人前の席がいつも気になって仕方なかった。

 肩までの黒髪が少しでも揺れると、見ている僕に気付いたのかとドキッとするんだよ。そんなことはないのにね。


 休み時間には、小説か何かを読んでる彼女を正面から見たくて、特に用もないのに教室の前いる友人のところで行くんだ。そこで振り返り、真剣なのにどこか楽しそうな色を、眼鏡越しの黒い瞳に浮かべている彼女の顔に見とれてる。


 何を読んでるかなんてどうでもいいんだ。

 いや、興味がないわけじゃないさ。

 彼女のことは何でも知りたいからね。


 でも、彼女の白い指がページをめくるとき、本に嫉妬することがあるんだよ。

 ほんと笑っちゃうよね。


 だから、その本の正体が判ったら、僕はきっとその本の悪口を言ってしまいそうなんだよ。……だから知らない方が良いんだ。


 馬鹿だよね、僕は。


 友達からは、早く告白しろとからかわれてきたけれど、気持ちを彼女に伝える勇気を僕は持てなかったんだ。


 でも……


 福寿草の花のように色鮮やかな未来が待ってるといいな。

 僕より少し低いところにある彼女の視線が、僕を見上げて笑ってくれたなら嬉しいよ。


 ああ、休みが終わるのが待ち遠しい。

 

 彼女は僕の気持ちを受け入れてくれるだろうか?


 ……福寿草って発芽率低いって言うからなぁ。

 

 自分で心臓がキュッと締まるのが判った。

 ……振られるのが怖いんだな。


 いや、来年は大学受験だ。

 告白するのは今しかない。

 頻繁じゃないけど、彼女とは仲良く会話もしてきたじゃないか。


 弱気になってちゃダメだ。

 

 うん、休みはもうじき終わる。

 今は一月むつきの福寿草だけど、八重咲きの花が咲くって信じよう。



 ――――信じたい……

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